第111話 涙の理由
向こうでおにいちゃんとネフィラ先生、それにアールが話をしているみたい。
身体は相変わらず火照っていて、バトラーに乗っている時ほどどうしようもないほどではないけど、相変わらず元気すぎるくらい力が有り余ってる。
アンナちゃんは、両肘を掴んでうずくまるみたいにしてる。
辛そうな感じじゃないけど、我慢してるみたいな姿勢かな。
レイラちゃんは泣き止んで、今は落ち着いてる。
なんで泣いちゃったのかわからないけど、怖い思いでもしたのかな。
もしかしたらだけど……
いや、多分そうだったとしても、こんな風に考えるのは止めよう。
フーガの街自体は全く壊れなかったし、これで買い物にも行けるよねおにいちゃん。
今夜は、馬酔木館のお風呂で、久しぶりに背中を流してあげよう!
あたしも洗ってもらおう、おにいちゃんが嫌がっても、洗ってもらおう!
その後は、隣でゆっくり休もう……
それくらいいいよね、おにいちゃん。
◇ ◇ ◇
ネフィラさんがこっちに歩いてきてる。
ミーコちゃんやレイラは、落ち着いてるみたいだけど、大丈夫かな。
私はちょっとマズいかも……
さっきは一洸さんの体温を少しだけ感じて落ち着けられたけど、もっと思いっきりぎゅーっとしてほしかった。
はっきり言えばよかったのかな。
でもミーコちゃんもいるし、変に誤解されるのも嫌かな。
一洸さんにわがまま言うようなキャラにならないよう気をつけてきたけど、あの時は本当に我慢できなくて……
誰でもいいわけじゃないので、すごく複雑な気持ちだった。
「みんな大変だったわね…… 一人一人、私の“識眼”で、あなたたちの身体の様子を見てみるわ、状況を聞かせてね」
ネフィラ先生は、ミーコちゃんから診てくれるみたいだ。
レイラは俯いたまま、表情がよくわからないけど、そんなに具合が悪そうには見えない。
あの時は泣き出しちゃうくらい、マズい状態だったのかな……
だとしたら、すごく可哀そう。
村にいる時から口数の少ない、本当に気立ての優しい子だっただけに、言いたくても本音が出せないんだろうな。
私もレイラも、男の人に対していい思いがないのは否定しない。
でも、そんな閾を壊してしまいそうなほど、すごく変な自分だった。
ネフィラ先生、イケない女の子になりそうな私を魔法で治してください、お願いします……
◇ ◇ ◇
ネフィラ先生は、ミーコちゃんを診るために、PCモニターの席まで連れて行ってる。
私は、顔の表情を読まれるのが怖くて…… ミーコちゃんや、アンナちゃんや…… 一洸さんに、知られるのが怖くて……
我慢できなくて、涙が止まらなくて、嬉しくて……
一洸さん…… もっと、しっかり触れ合っておけばよかった。
もっと、もっと、強く抱きしめて欲しかった……
でも、絶対にそんなこと言えなくて、近くにいるだけで、私は満足してた。
そんな私に、触れる機会ができて、胸に顔をうずめることができるなんて、わたし、嬉しくて、幸せで、どうしようもなくて……
絶対に、今は顔を上げるわけにはいかない。
こんな惚けた顔を見られたら、幸せな表情を見せてしまったら、もう一洸さんに会わせる顔がない。
私は恥ずかしくって、あの人の顔を見れなくなってしまうかも……
神様、お願いします、どうか、こんな私を隠し通させてください。
もし、もしも一洸さんに知られたら、私……
◇ ◇ ◇
ネフィラは、ミーコたちの身体を診てくれているので、オレはそのまま彼女にまかせることにした。
言われるまでもなく、オレではどうしようもないもんな。
フーガの街は破壊されることなく済んだが、避難した人たちが落ち着くまで、しばらくかかるだろう。
馬酔木館に行って、ゆっくり風呂でも入るか。
美味い食事もしたいし。
エイミーから通信が入った。
“一洸、今大丈夫?”
“大丈夫です”
“大陸北部の現場だけど、ネクロニウムの回収が終わったわ。
今回はかなりの量が採れたの、すごい規模だったみたいね”
“ええ、可能な限りの記録もしたので、あとで見せますよ”
エイミーは、しばしの間をおいて続けた。
“……その、あなたの作ったバトラー、私たちも興味があるの。
話から聞かせてくれる?”
“わかりました、そうしましょう”
オレは、予めアールと打ち合わせておいた話をすべく準備に入った。
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