第110話 広めてはいけなかったもの
保管域に戻ったオレは、三人の様子がおかしいので、早速アールとネフィラに相談した。
“……暫定で設定したリミッターの値だったが、これは予想以上に絞る必要がありそうだな。
ただ、今回得られたデータはこの上なく貴重だ。
マナジェネレーター搭載機の彼女たちの攻撃は、単体でも十分ネクロノイド殲滅に有効であることがわかった”
アールは、自分の制作した量子リアクターからマナジェネレーターへのエネルギー変換システムの実効性を高めることが楽しくて仕方ないといった感じである。
それとは対象的に、ネフィラは深刻な表情を崩すことなく、彼女たちを見ている。
“最初の試みだもの、仕方ないわよね。
あの魔換炉、マナジェネレーターからの魔素供給って、それまで人間、亜人、魔族も含めて、誰も浴びたことのない魔素量なのよ。
どんな影響があるか全くの未知だったわけだし、そんなことになっても不思議じゃないわ”
ネフィラは、ミーコたちの身体とメンタルの不調に責任を感じているのだろう。
魔換炉、マナジェネレーター。
今は、量子リアクターからエネルギー供給を受けて、魔素を排出する装置。
これを作ったものの存在すら伝わっていないが、エネルギー供給元が、ほぼ無限に膨大なエネルギーを出し続ける量子リアクターなどという想定は、していなかったはずだ。
よって、その力を浴びることになる人間やその他の存在への配慮など、予想しようもない。
引き継いだオレがいうのもなんだが、解き放ってはいけないものだったのかもしれない。
これは使い方次第なのはもちろん、使う側の問題だ。
彼女たちが使って、あの成果である。
調整が成された上で、ネフィラのような存在が魔素の供給を受けて使用したら、恐らくその戦力は勇者や魔王の比ではあるまい。
もしそれが、邪悪な存在であったなら……
これが広まらなかった理由は、今この段階でもわかる、広めてはいけなかった。
なので、資料が何も残っていなかったのだ。
“わたしが個別に聞き取りするわ……
女の子のメンタルって、男性には絶対わからないもの”
そうでしょうね、ネフィラ先生。
よろしくお願いします。
ネフィラはそう言うと、まだ興奮冷めやらぬミーコたちから事情を聞くために、離れていった。
“……その、もしオレがあのマシンに、マナジェネレーター搭載タイプに乗ったとしたら、よくわかると思う”
“そうだろうな。
改造を急ぐことにしよう。
一洸の連邦提供マシンの場合、基本設計が私ではないので、少々勝手が違うのだ。
今シミュレーターで遊んでいるリロメラだが……
リロメラ用のマシン、ミーコたちのものとは違う発想で作ろうと考えている”
“違う発想?”
“そうだ、リロメラの神力、あの力の源はなんだと思う?”
そう言われて検討もつかないが、少なくとも魔力ではないだろう、本人も言っているし。
ただ、膨大な基礎能力を持っているのは間違いない。
“あの光の力って、どんなものなんだ?
オレにはさっぱりわからないが、アールにはわかるのか”
“あれは、連邦がまだ持ちえない技術、光子魚雷の力とほぼ同じなのだ”
オレはたじろいだ。
アール、頼むからわかるように説明してくれよ。
“簡単に説明しよう。
光子ドライブ、宇宙航行における光子推進とは、光の粒子を利用して物体を動かす理論的なシステムだ。
光の粒子は質量はゼロだが、エネルギーと運動量がある。
このエネルギーは、物体に反射されたときに推進力に変換され、反射板となる対象からパルス光レーザーを通じて、推進力としての十分な運動量を生成することが可能なのだ”
怯えたような表情をするオレを察したアールは、さらに語句をまとめてくれた。
“つまり、大出力レーザーを宇宙船に照射して航行するレーザー推進、その推進光を対象にぶつけて破壊しているのがリロメラだ”
そう言ってくれれば、オレでもかろうじて理解できた。
軽く肩の力を抜いて、オレは息を吐いた。
“……それは、光子ドライブ駆動のバトラーを作る、というわけか?”
“理解してくれてうれしいよ一洸。
ただこの光子ドライブ、実用的でないのと、それほど運用データが揃っていない。
よって、制御する上で懸念が残る。
リロメラの搭乗機に実装する場合、リロメラが用いる光力の増幅装置として、そのまま光子ドライブを利用する”
これも出たとこ勝負といったところなのか。
たとえ懸念のあるものであっても、リロメラはとんでもなく喜ぶだろうな。
オレは、ぼんやりとアール製シミュレーター改の方を見ていた。
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