第109話 功労者たちの望み

 オレはフーガの森近くに転移すると、周囲の状況を見ながらミーコに連絡。


 以前付けた魂意鋲の印の岩は砕かれていたが、その印の部分だけがかろうじて残っていて、オレをここへ出してくれた。


 ズタズタになった森の稜線と地形は、戦闘の凄まじさをまざまざと見せつけている。



“おにいちゃん! 今どこ? すぐいくよっ!”


“……いつもみんなで休憩したあの森のところだよ。

わかるかなぁ、もう元の姿は残ってないから”


 オレは元あったその場所に佇んでいると、ミーコの機体が凄い勢いで降下・着陸してきた。


 ジェットではない、ぶぅうんという推進圧がオレを圧迫する。


 ハッチが開いたが、そのままミーコはオレに飛びかかってきた。


 尻もちをつくオレに、ミーコは構わず全身を押し付けてくる。


 少し身体が硬くなったかな? 特に胸の弾力がついたようで、以前抱き着いてきた時よりは筋肉が増えたのだろう、より重くすら感じた。


「……ミーコ、ちょ」


「おにいちゃん、なんかね、あたしすごーく変なの、ごめんなさい、もうどうしようもないの……」


 オレはミーコを跳ねのけることもできず、そのまま抱き着かれるままになっている。


 ミーコの身体は熱く、息も荒かった。


 理由はわからないが、興奮しているというよりも、まるで何かの衝動に突き動かされているといった感じである。


 そりゃそうだ、あの化け物を3機だけで排除したんだ。


 アンナやレイラに連絡しようと思っていた矢先だったので、連絡しようとしたら、


「……おにいちゃんお願い、あと少し、このままでいさせて」


 オレはこの状態のまま、少しだけミーコのしたいようにさせていた。



 これくらいいいよな、お互い頑張ったんだし。




 連絡をしたアンナ、しばらくしてレイラの機体は次々に着陸してきた。

 降りてきたアンナは、何故か俯いている。


「お疲れさまアンナ…… なんか、具合悪そうだね?」


 アンナは拳を握りしめて、オレの傍によると、うつむいたまま言った。


「一洸さん…… 頭、ポンポンってしてください、お願いします」



 え?



 アンナがそんなことを言うとは全く予想できなかったので、オレは本気で驚いた。


 そうか、そんなに大変だったんだよな。



 女性の気持ちを察することなどオレには無理だが、要求してくれるなら、可能な限りそうしよう。


 オレはミーコに背中にしがみつかれながら、アンナの頭をポンポンとした。

 アンナは俯いたまま、オレに頭ごと身体を預けてくる。


 この子からこんなことをされるのは初めてだったが、オレはアンナの頭を抱き寄せて、よしよしと撫でてあげた。


 アンナはそれ以上の行為を求めているようだが、必死に抑えているのが、鈍感なオレにも手に取るようにわかる。


「……大変だったんだよね」


 オレはそのまま頭を撫で続けたが、なにか違和感を感じていた。

 もっと豊富な女性経験があれば、きっと上手く労ってあげられるだろうに。




 レイラの機体が、降り立ってきた。


 その降下状態から彼女の控えめな性格がよく表れていて、こんなところにも人柄が出るんだなと思わされる。


「レイラ、お疲れ様、大変だったね」


 レイラはいつものように少し俯き加減でいたが、どうしたことか涙ぐんでいるようだ。


 顔も何かに反応して赤くなるのではなく、初見から赤かった。


「……あ、あの、」


 泣いている女の子にその理由をきいてはいけない、そんな事が何かの本で書いてあったのを思い出し、オレは理由など聞かずに近づいてくるレイラの頭をポンポンしてみた。


 アンナがそうして欲しいと思ったので、彼女もそうだと思ったが、果たして良かったのか。


「……」


 レイラは、開いているオレの右胸に飛び込んできた。


 闘技会の時に三人を囲むように労ったことがあったが、その時とは明らかに違う。



 レイラがオレに抱き着いてくる……



 アンナと同じくらいありそうもない状況に、オレは再びたじろいだ。


 だがそれが貴女の望みであるならいくらでもどうぞ、こんな胸や肩でよければお貸ししますよ、レイラさん。


 レイラはオレに片腕で抱きしめられると、わんわん泣き始めた。


 アンナは泣いてこそいなかったが、頭をオレに預けている。


 二人とも抱き寄せるオレの腕をそれぞれ掴んでいたが微妙に力が入っており、もっと強い抱擁を望んでいるだろうことが、男としての本能でわかった。


 背中は、ミーコが子泣きじじいのようにしがみついて離れない。


 ミーコは、アンナとレイラがこんな状態になるのをわかっていたかのように、予め背中を独占している。



 一体何があったのか。



 細かい記録はあとで確認できようが、今はネクロノイドの脅威を取り除いた、この功労者たちの望みをオレが叶えてあげるのが、ここにいる意義そのものだろう。


 オレはアンナとレイラを両腕で抱きしめ、背中をミーコにホールドされながら、滅茶苦茶になった河原の岩場にしばらく佇み続けた。

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