第9話 ミーコ、攫われそうになる
ミーコを追ってギルドの正面から出たが、見失ってしまった。
なんということか。
こんな異世界の見知らぬ街で、なにをやっているんだあのネコ娘は。
オレは少々苛立ったが、自分にも責任がないわけではないので、とりあえず周囲を見回してみる。
ひとまず階段を降り、方向の辺りをつけてみようと思ったが、この建物の前は大通りで、そこそこの人通りがある。
細い路地に入られたとしたら見当のつけようもない。
その時、何かが割れる音がした。
ちょうど正面の路地から聞こえたようだ、行ってみよう。
4,5人の人だかりがあり、案の定ミーコはいた。
お決まりのギルドイベントか、まぁいい。
下手をすると本当に死ぬってことが、ちょっとアレかな。
ミーコは、一人の男に腕をつかまれて逃げようとしている。
オレはすぐに近寄ると同時に、周囲のものに注意をくばった。
あまり重いものだと、死ぬ。
ちょうどいい感じの台車の車輪が立てかけてあった。
この建物の所有物なんだろうが少々拝借します、と小さく呟く。
ミーコはオレを見つけると、すぐさま腕をつかんだ男の顔を引っ掻いて押し離した。
ぎゃっという声とともに男は顔をおさえながら呻いている。
ミーコは何も言わずに素早く自分の後ろに回り、腕に抱きつきながら男を睨んだ。
「自分の身うちなんだが、なにかご迷惑をかけましたか?」
トラブルに慣れているわけではなかったが、こういった場合に言うセリフまでは用意していなかったので、とりあえず思いつきで言ってみた。
「ちっ、結構なご挨拶じゃねえか。
よぉ色男、そのキャティアのお嬢さんとお友達になりてぇってだけで、おれはこんな目にあわなきゃいけねぇのかよ」
恐らくは先ほどのギルドによくいるタイプの大柄な男で冒険者だろうか、いつもそういって脅しているだろう風に顔をおさえながらニヤケて言ってきた。
キャティアか。
確認しておこう。
「キャティアだからどうしたんだ? お友達になりたい態度には見えないがな」
「ごちゃごちゃ言わねぇで大人しく渡しゃあいいんだよ、
キャティアなんておれたちの愛玩動物でしかねぇ、お前だって楽しんでんだろ?
それにしてもこんな上玉、今まで見たこともねぇや……
痛い目見る前に消えろ!」
そのもはやただのごろつきは、さっそく殴りかかってきた。
ミーコを軽く後ろに突き飛ばすと、その男のパンチをかろうじて避ける。
喧嘩慣れなどしていない自分にも、その気があれば避けられるもんだな、などと一人で関心する。
「キャティア…… この子が獣人だから侮辱しているのか」
「そんなに大事なオモチャならせいぜい大事にするんだな、もうおせぇけどよ!」
オレは台車の車輪まで後ろ足に飛びのき、それに触れると一瞬で消失した。
「大事なパートナーなんでな、
お前らみたいなごろつきにくれてやるわけにはいかないんだ」
「だったら首輪でもつけとけや!」
ごろつきからさらに少し離れると、しっかり上空に照準を合わせ、さきほどやったようにごろつきの頭の直上から見舞う。
周りの男たちはなにが起こったのか理解できずにいたが、突然現れたごろつき男の頭上へ落下しだしたものを見て、魔法の一種であることに気づいた一人が叫んだ。
「上だぁー!」
しかし間に合うはずもなく、ゴンッ、という鈍い音とともにごろつきの頭に大ヒットし、そいつは仰向けに倒れる。
フリスビーがテーブルの上で回転するように、台車は街路上を回って止まった。
「おにいちゃん……」
ミーコはオレの腕をしっかりとつかんだまま瞳をうるうるとさせている。
騒ぎを聞きつけたギルドの職員と一緒にカミオも現れ、周りにいた仲間の男たちは素早く逃げおおせた。
オレはミーコの肩を抱き、
「大切なパートナーの子がこの男にからまれているようだったので、
守らせてもらいました」
メガネをかけたギルド職員はカミオと顔を見合わせて、“なるほどね”といった表情をする。
「私はヨシュア、このギルドの統制主任です。あなたが一洸さんですか?」
「はい」
オレはヨシュア主任に挨拶する。
年のころは30代後半くらい、実直な役人といった印象だ。
「ミノタウロスの件は、カミオから聞いています。この度の討伐協力、大変感謝しています」
ある程度の道筋が開かれてくれたことに、ほんの少し安堵。
なし崩し的に巻き込まれた状況であったが、わずか一日でたどり着いた現実としては、悪くないなと思った。
ヨシュアは倒れている大男に目をやると、他の職員に連行すべく指図している。
「お待たせしてしまって申し訳ございませんでした。
お話を伺いたいので、とりあえずお越しいただけますか」
「はい、もとよりそのつもりでした」
ギルドに同行したオレたちは上階に通され、小奇麗な部屋のソファにかけるよう勧められる。
女性の職員が、お茶であろう飲み物までだしてくれた。
ミーコはうつむきながら、手を離そうとはしない。
「……ごめんなさい、おにいちゃん、ごめんなさい」
ミーコは目に涙を一杯うかべている。
彼女の頭をそっと引き寄せると、手の力が少し緩み、彼女の安心が伝わってきた。
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