第4話 荷物を確認し、今後を考える


 さて、手牌を確認するか。


 さきほどアイテムボックスの内容表示をもう一度だしてみたところ、車に積んでいたものは全て入っていた。


 冷蔵庫の中身は、持っていけるものは収納ケースに入れたが、そうでない僅かなものは引っ越しの時に処分している。


 ミーコが入っていたということは、生き物も可能、保存は大丈夫なんだろうか?

 ラノベだと中のものは腐蝕することなく保存できたはずだが試してみることにした。


 森に咲く花を一輪とって、空き瓶にいれてボックスに戻す。

 何日か後、これでわかるだろう。


 取り敢えず今夜はどうしよう?

 城下町に戻って宿でも探すか。


 それよりこの世界の金を持ってないし、基本的にこれからどうしたものだろうか。

 引っ越しの荷物が全てあるということは、当面死ぬことはないだろう。

 だが、生存を繋いでいく基盤をつくらねばならない。


 仕方ない、今夜は野宿するか。



 キッチンのスチールラックにあった食材も収納ケースにひとまとめにしてあったので、二人分をかなり軽めに出してみた。

 ビーフジャーキーに、ミックスナッツ、くるみの袋etc……。


 これからのこともあるので、できるだけ節約していかねばならない。

 何せ今やこれらは貴重な元世界の遺物なのだから。


 ミーコはケースからナッツ類をだすところを眺めている。

 先ほどのチョコケーキでお腹の方は落ち着いているはずだが、食べ盛りのほぼ子ネコにとっても、甘いものは別腹なんだろう。

 キラキラと目を輝かせてそれを見つめていた。


 早々に何とかしないといけないだろうな。

 オレは深く心に言い聞かせた。




 木の下の原っぱに腰かけて、乾き物の食事をするオレとミーコ。

 ミーコはオレの食べ方を一つ一つなぞらえて動作していた。


 ネコのように頸を曲げて皿から直接たべようとしたら言うつもりだったが、彼女は人間になった自覚が強いらしい。

 オレの動きから人間の動きそのままに変わろうとする気概が感じられた。


「手が使えると、食べる時ってこういうふうになるんだね」


「以前とどっちがいい?」


「手が使えるなら、もちろん今の方がいいよ」


 ミーコは何の不自由もなく普通にジャーキーをかじり、ナッツを口にする。

 自分の動きをトレースしたからかもしれないが、特に不作法であるとは思わなかった。

 

 ミーコの歯並びは整っていて非常に美しい。


 オレは歯ブラシをだした。

 替え用に数本買っておいたもののうちの一つをミーコに持たせる。


「寝る前には、必ず歯を磨くんだ。人によっては食べた後ごとに磨く人がいるけど、オレは朝と夜だけしてた」


「いつも口にいれてカシャカシャして、あたしもやってみたいと思ってた!」


 近くの小川に行ってコップをだし、チューブ歯磨きを少しつけて歯を磨いた。

 イエテボリ法をそのまま教えると、彼女は素直に一回で歯磨きを覚えた。


 話していてわかったが、この子は自分の言うことをスポンジのように吸収し、人間の常識を身に着けてくれている。

 その早さは予想をはるかに上回っていた。


 といってもここは異世界。


 どんな危険があるやも知れず、気づいたらゴブリンやオークにかこまれて自分は餌に、ミーコは……

 

 いややはりダメだ、絶対に危険すぎる。

 せめてミーコだけでもボックスに入ってもらわねば。


「ね、ミーコ。ここは異世界で元いた世界とは違ってとても危険なんだ、

今夜はさっきまでいたあの場所で寝よう」


「おにいちゃんも一緒ならいいよ」


 オレは…… そういえばオレは入れるんだろうか?

 

 素朴な疑問だが、外側から手をいれて表示に従って物の出し入れはできるが、自分が入った場合はどうなるんだろう。

 

 物は試しと、手をいれた拍子に中に入ろうとしたが無理なようだ。

 何かの制限なのか、それ以上のものなのかはわからない。


「オレ自身は入れないみたいなんだ」


「ここでこのまま寝るんでしょ? 大丈夫、何か感じたらすぐ知らせるよ!

おにいちゃんだけ一人で寝させるわけないじゃん、心配しないで!」


 そういって笑うミーコだった。


 そうか、ネコなら危険が迫れば野生の感覚というか、すぐにわかるだろう。

 街からそう遠くはなれているわけでもないし、信じてみようか。

 自分自身が熟睡しなければいいわけだし。

 オレは試してみることにした。


「わかった。少しでも変な気配を感じたら起こしてくれ、頼んだよミーコ」


「うん、起こすね!」


 木陰の草っ原にシートを広げ、タオルケットを布団がわりにミーコと横になった。

 ミーコはネコだった時いつもそうしていたように、腕にしがみついてくる。


 これでいいのだろうか。

 いや深く考えてもどうしようもないだろう。


 自分にしては信じられないほど楽観的に、状況に身を任せようとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る