第2話 炎につつまれた異世界召喚の現場から避難する
オレは、もうもうと煙を上げる屋内円形ホールを背に歩き出していた。
そう言われても、これからどうすればいいのか……
まず、人気のないところにいって確認しないと。
魔法陣が描かれていた大きなホールのような場所は、この世界の城の一部だったらしい。
避難もかねて外に出てみると、この炎と煙から逃れるために建物の周囲から人々が逃げ惑っているので、それに紛れてそのまま進んだ。
城の坂を下ると、城下町が一望できた。
そこは大きな町で、少し外れると木々が茂った森が広がっているのが見える。
街へ行くより前に、まずは状況を確認しよう。
ライトノベルやアニメなどで異世界の存在は知っていたし、特異現象が生じても受け入れる心の準備、意識は持っていたが、さすがに実感がわかなかった。
魔導士と言った女性は“保管域”と言っていたな。
単語から察するに恐らくアイテムボックスか、あるいはそれ以上の規模のものか。
城下町から離れた森を目指したが、結構な距離だ。
途中すれ違う人々は、特にオレに注意を払わなかった。
無国籍風というか、あらゆる人種のるつぼで、時折見られる毛深い人々、獣人?
オレはこの世界ではそれほど奇抜な風体でもなく、顔つきも日本人ではあったが、不自然には見えなかったようだ。
体感で一時間半くらいだろうか。
町には巨大な城壁があるわけでもなく、衛兵の検問もなかった。
人の気配が全く感じられない場所までやってきたので、話に聞いた保管域を試してみる。
それは意識をすると、異次元の穴が開きすぐに中を確認できるようだった。
内容表示盤だろうか、半透明のボードのようなものが見え、“保管域”の内容を階層的に表示することができるようだ。
“ステータスオープン” などと言わなくてもいいのが楽だな。
まるで駅の断面図のような絵柄で日本語ではなかったが、異世界文字にうすく重なるように日本語や数値が表示されている。
書かれている意味はそのまま理解できた。
アイテムボックスか、それならなんとなくわかる。
もちろん使えないだろうことは解かっていたが、スマホを出してみた。
オフラインアプリは使えるようだが、当然アンテナは立っていない。
残量は88%…… 確認してボックスにしまった。
内容表示に車の文字はなかった。
爆発に巻き込まれて荷物だけ大丈夫というのも変な話だが、命があっただけでもよかったか。
さらにそこには、ケージの中にいる同居人、ミーコの名前。
よかった! ミーコは生きていたんだ。
すぐに出してやらねば。
ミーコ! いれっぱなしってことは、まさか……
ボックスの中をまさぐると何かが手を握ってくる。
一瞬ぎょっとしたが、思いきり引きずり出してみると女の子が飛び出してきた。
「わーん!」
素っ裸のその女の子は泣きながら抱き着いてきた。
その見知らぬ少女は自分に抱き着いて離れようとはしない。
まず引き離して話を聞こうとしたが、彼女はしっかりと腕をホールドしている。
「おにいちゃん、あたしミーコだよっ!」
ミーコを名乗るその女の子は、それでもなかなか離れてくれなかったが、抱きしめながら確認すると、尻尾とネコ耳を持っているのがわかった。
本当にあのミーコ?
「ミーコ、人間になったのか?」
よく見ると、たしかにアメショー色のシルバーホワイトの髪とネコ耳に尻尾もあって、顔もなんとなく面影があった。
そこにいるのはショートカットのネコ耳美少女である。
転移してボックスに入れられた時、どういうわけかネコ獣人に変異してしまったわけか……。
魔法のことはわからなかったが、あの魔法使いの手違いなのは疑いようもない。
やっと落ち着いて離れてくれたミーコはきょとんとした顔でオレを見つめる。
「おにいちゃんだよね…… どうして小さいの?」
ミーコはしげしげとオレを上から下まで観察した。
「そっか、おにいちゃんが小さくなったんじゃなくて、あたしが大きくなったんだ、これってすごい!」
一匹というか、ミーコは一人で納得し感動しているようだ。
人間という概念はもともと持っているのか、とすると自分がネコだという自我もあったということだな。
とりあえずミーコは自分を“おにいちゃん”と認識し、以前のように甘えてくるのでその所在を疑いようもない。
あの子の中でオレは“おにいちゃん”だったのか……。
保護者であり、飼い主であった自分としては少々複雑なものがあった。
彼女の髪の毛はグレーがかったホワイトクリーム、臀部から生える尻尾のわずかな周囲だけ縞柄アメショーカラーの美しい毛並みで生えそろっている。
グラビアアイドルも真っ青だろ……
胸は大きくて張りのある丁度いいサイズ、上半身から腰、臀部に至るラインは芸術的なほどに美しい。
ジロジロ見ているわけではないが、目のやり場に困ったのは否めない。
「どうしたの? おにいちゃん、なんか変……」
「あ、いや、そうだ、何か着るものをださないとね」
ボックスをイメージして手を入れると、空間の入り口にうすい小さな石板状ボードが瞬時に出現する。
車に積んであったもののなかには、チョコケーキが何箱かあった。
ケーキの小箱をとりだし、ミーコに与えると彼女は目を真ん丸にして喜ぶ。
「これ、おにいちゃんがいつも食べてたのにくれなかったやつだ! いいの?」
「食べなよ、人間になったんだから多分大丈夫だ」
ミーコは開け方がわからなかったらしく、箱をひっくり返したりしてどうにかしようとしている。
オレは箱を受け取り、切り目に指を入れて開け、包装を裂いてミーコに渡した。
ミーコはオレの動きをしっかりと見つめている。
「んーー、おいしぃ! こんなに美味しいもの食べてたんだ!」
彼女はチョコケーキを美味そうに食べている。
子猫だった頃、自分が食べるお菓子をなんとかして奪取しようと、必死にまとわりついてたミーコを思い出す。
「ネコにチョコレートをあげちゃいけなってことになってるんだ、カフェインがよくないらしい」
説明したが、ミーコはオレの話を聞いているのかいないのか夢中になって頬張っている。
尻尾がまっすぐ上を向いて喜びを表現しているのが面白かった。
言うまでもないが、この子の衣服を用意しなければ……
自分の前にいる16、7歳くらいにしか見えない美少女は、今何も着ていない。
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