ネコバレで追い出されたら異世界召喚、貰った権能はアイテムボックス無限大でした ~ワクチン人口削減計画が成功した世界線、可能性の未来~
凱月 馨士
第一章 異世界転移偏
第1話 ネコの存在が不動産屋にバレて出ていく決断をする
「困りますよぉ、本当に……」
不動産屋から連絡があったのは、土曜午前のまだ早い時間だった。
確かに契約書にはペットを飼うことは禁止で、ペットを飼育した場合は直ちに立ち退く、と別途誓約書まで書いている。
ネコのミーコは事情があって一時保護したが、それが一年近くになっただけ。
でもそんな言い訳は通じないよな。
自分でもわかっていたし、このままではいけないと思っていた。
そんな矢先だった。
とりあえず荷物をまとめて唯一の財産であるワゴン車に積み込んだ。
分類と箱積めに手間取ったが、大した量ではないのですぐに終わり、
ミーコはケースの中で大人しくしてくれている。
「杉本一洸さん、24歳、会社員で保証人予定は…… 親御さんですね。
鍵は開いてますので、ゆっくり見ていってください」
別の不動産屋に下見物件を問い合わせしたところ、いつでも内見できるとのこと。
よければ即契約しようと思っていた。
こんな地方都市のマンションでもペット禁止の割合は多く、なかなか好物件を探すのは難しいようだ。
会社から遠くなければよかったし、別にそれほどの贅沢をするつもりもない。
プログラマーという職種上、本質的に場所はどこでもよかったのだが、通勤時間を余計にとられるのは避けたかった。
農道のあぜ道で拾ったミーコは、大学在学中から一人暮らしを続けていた自分にとって、初めてできた同居人(?)であり、家族であり、友達でもあった。
子ネコの潤んだ瞳でじっと見つめられた後に保健所に連れていくなど、すぐに不可能だと理解させられる。
腹をくくって、この子と生きていこう。
そう決心をさせられたが、ネコと生きていくことが自分にとって重荷であるとか、不自然なものであるということは全くなかった。
田園風景のあぜ道を車で進んでいたが、急にミーコが騒ぎ始める。
「どうしたミーコ?」
ご飯の時間には早かったが、病院につれていかれるとでも思ったのだろうか。
鳴き声が尋常ではなかった。
「なんだこの暗さは…… 飛行機?」
急に空が暗くなったと思ったら、轟音とともにすぐ上を飛行機が飛んでいる。
この距離はマトモじゃないぞ、まさか……
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
顔にかかった熱波の不快さで目を醒ます。
熱い。
本能的に身を丸めて防御する。
顔を防いだ両手の隙間から、そこが地獄だと理解した。
いや、これは飛行機事故だ。
ゆらめく炎の合間から見えたものは、巨大な航空機の裂けた胴体の一部、四散した機体のパーツ。
なんともいえない、ガソリンだろうか、石油と肉が焦げる臭い。
とにかく、ここから離れなければいけない。
そうだ車…… ミーコは?
周りに車の残骸らしき破片はなく、自分の荷物らしきものもない。
オレはただ身体一つで投げ出されていた。
キャリーボックスは荷物と一緒だ。
仕方ない、ミーコはあとで探そう。
オレはジャケットで頭を覆うと、炎の切れ間を飛び越えてその向こうへと走った。
炎の渦中を抜けると、足元の床が輝いている。
文字のようなものが大きく緩やかな円に沿って描かれて、それが光っていたのだ。
意味は全くわからなかった。
これ…… 魔法陣か。
それはとてつもなく巨大な文字模様で、爆散した飛行機を囲むようにあった。
円の外側から少し離れたところに一人の人間が立っている。
魔法使いのようなローブを羽織り、杖を炎に向けていた。
淡い光に包まれているように見え、身体の細いラインから女性だとわかる。
なにかを唱えているようだが、よく聞こえない。
状況を確認しなければならない。
彼女に近寄ったが、オレを見るとまるで力が抜けたかのようにその身をもたれかけるように倒れた。
「大丈夫ですか」
ローブが焦げてくすぶっていたので、すぐさまジャケットを脱いで抑えながら火を消した。
彼女は、生命力そのものを使い果たしたように疲労困憊した表情。
「私は魔導士ネフィラ…… あなたたちを召喚した者です。
召喚は失敗しました。
事故の規模が大きすぎ、私の設定した魔法陣ではカバーしきれませんでした……
本当に申し訳ない」
ローブからかいま見る彼女の横顔は恐ろしいほど整っている。
オレが今まで見たどの女性とも違い、次元を超えた美しさとでも言うのか、人間のそれとはとても思えない。
「全ての対象者を救うことは適いませんでしたが、あなたは生かすことができたようです…… あなたのお名前は?」
「一洸です、杉本一洸」
魔導士はそう言うと、オレの手を握って言った。
「一洸さん、あなたの権能は…… “保管域”よ。
ちょっと待ってて」
“保管域”?
彼女は両手で杖を握ると何かを唱える。
杖の先端の円形部分が眩いほどの光を放ち、しばらくするとおさまった。
「一洸さんが大切にしていたものを可能な限りそこへ入れておきました、
困らないようにその他の事も……
私にできる、これが最後の魔法…… 本当にごめんなさい、一洸さん」
ローブの女性はそう言って、がっくりとオレに身を預けて倒れてしまった。
脈をとったが、反応はない。
オレはもたれてきた彼女をそっと床に寝かせ、あらためて魔導士ネフィラを見た。
横顔から生える耳の長さは、普通の人間のそれではない。
この人、エルフってやつなのか。
今や死人となってしまった生気のない顔は、完璧に隙のない美しい彫刻のようであった。
あらためて魔法陣の方を向き、全体を眺めてみる。
何かの競技をする場所であろうか、まるでローマの円形闘技場のような屋根を持った巨大なホールであった。
その場所には、オレ以外誰も何も生きているものはなく、ただ燃え盛る炎と煙があった。
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