58話

「そういえば、瞳さんは学校行ってないんですか?」


 会話が落ち着いた後、ふと俺は疑問に思ったので聞く。

 様子を見るかぎり、出歩いてから時間が経ってるようにも見えた。服も私服だし。

 ここら辺の高校は全て制服なのを知っている。つまり、学校に行ってないのでは、と推理したが、何か訳がある場合失礼になるのでは? と遅れて悟った。


 黙った瞳さんを見て、やはり失言だったかと思う。


「いや、何か事情があるなら全然……」


 慌ててフォローするが、瞳さんの様子は言えないというよりは言いたくないように感じた。なんだか罰の悪そうな表情をしており、縮こまった様子はさながら親に怒られる子供のようで。

 そして、諦めたようにただ一言発した。


「サボったのよ」


「え?」


 瞳さんの性格上ありえないような言葉が聞こえた俺は、聞き間違いかと思い、聞き返す。

 いやいや、まさかサボるわけないじゃん? 瞳さんはどこか人を寄せ付けない雰囲気を纏っていて、常に完璧を求めてる姿勢だ。


「だから、サボったって言ってるのよ!」


「ま、まじすか」


 逆ギレ気味に放たれた言葉に、俺はそう返した。


 瞳さんは少し拗ねた様子で、仕方ないのよ、と言い訳するように呟いた。


「いや、だってね? 出席日数は家の力使えばなんとかなるし、大学までの全範囲の勉強も完璧だし……」


「必要ないと……」


 いやはや完璧人間だな……。ん? ブーメラン? 知らん。って自画自賛やん。

 といっても出席日数を家の力でなんとかするって……。さすがというべきか……。


 まあ、とりあえず。


「学校行きましょうか」


「え、嫌よ」


 即答!? そんなに行きたくないんか!?


「ほら、高校生は一度しかないんですよ? 今のうちに楽しめることあるじゃないですか!」


 高校生はイベントが目白押しだ。

 学校祭、体育祭、修学旅行に数ある青春イベント……!


 まあ、修学旅行はまだだからさておき、それ以外を全く謳歌できてないのが俺なんだけどね!

 あー、悲しい。


 あ、日夏との勉強は青春イベントなのかも…………いや、後半から死ぬ気で勉強してただけだしな……まあ、ある意味青春か。



 俺の願望の籠った言葉に瞳さんは首をふるふる振って、死んだ目付きで否定した。


「そんなのワタシが楽しんだことないわよ。学校祭に体育祭? 何かしようとしても全力でクラスメートが止めるんだもの。ワタシはオタサーの姫かっちゅーねん! 修学旅行は会合あって行けなかったし!! ははっ、ワタシに青春を楽しむことなんて不可能よ……フフフフフフフフ」


「ちょっ、落ち着いてくださいよ!」


 顔を俯けてブツブツと怨嗟を言い出した。

 世界を呪ってるような目付きで虚空を見ている。

 怖い怖い。

 触らぬ神に祟りなしとは言うけど、道でほっとくわけにはいかないし……。

 どうやって再起させればいいんだ……。

 

 俺があたふたしていると、救いの手は思わぬところから差し伸べられた。


「おねーちゃんは少女漫画が好きなのだ! いっつもこんな日常送りたいって言ってるのだ!」


「ちょっ、や、やめなさい!」


 瞳さんの妹がそういうと、瞳さんは顔を真っ赤にして止めに入る。


 少女漫画……。

 なんか、話せば話すほど、最初のイメージが遠ざかるのはなんだろう……。


 そしてさっきから瞳さんから漂う残念臭。


 オフで会うとこんな感じなんだな……。


 家のことで縛られても、妹さんとは仲は良好なようだし、聞くかぎりだがちゃんと趣味はあるし。


 ちょっと安心したかな。



「ま、まあ、とりあえず学校は……頑張ってください」


「丸投げじゃない……」


 いや、俺にどうしようもないって。

 でも、瞳さんの力なら


「転校すればよくないですか?」


 すると、顔をはっ! と上げて目をキラキラさせた。


「その手があったわね! うん、それでいきましょう!」


「え!? 急に決めて大丈夫なんですか!?」


「なんとかなるわ」


 な、なんとかって。

 まあ、実際になんとかなるんだろうな。いやはや怖いね。


「そ、そうですか。頑張ってくださいね」


「ええ! 楽しみにしておいて! じゃあ!」


 そう言うがいなや、妹さんの手を引っ張ってどこかに行ってしまった。


 こ、行動が早い……。

 てか、その前にさ



「楽しみにしておいて、ってどういうこと……?」


 なぜか俺は嫌な予感がした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 久々の投稿です。

 遅れてすみません!


 詳しくは言えませんが、大きな山場を越えたので書く時間を確保することができました!


 更新ペースを今度こそ上げたいと思います。



 みなさんの応援のおかげで、


 カクヨムコン6の中間選考を突破することができました!!


 ありがとうございます!

 姫喝をこれからもどうかよろしくお願いします!

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