57話
三章開始
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「どうして俺ってモテないんだろう」
「自分の発言を思い返してみたら?」
俺は物憂げな表情をして言い放ったケイヤの言葉をにべもなく冷たく吐き捨てる。
こいつ、自分のモテない原因わかってないのか……。可哀想に。
「それがわかんないから渚に聞いてんだろう?」
まさか……! こいつ、本気で悩んでんのか!? 物憂げな表情はそのままで、俺を見る目はどこかすがるようだ。そしてケイヤの手に持っている物を見ると……
「ちょ、チョコクリームパン……」
「ん? ……あぁ、なんか無性に食べたくなる時があるんだよ」
呑気にそう言ってるが、俺にはその食べたくなる時がわかっている。
はぁ……また振られたのか……。どうりでテンション低いし変なこと言い出すわけだ。
振られた後のケイヤは、なんていうか……めんどくさい。思考を全てネガティブに持っていくし、消費期限切れの発酵食品みたいな目で見てくるのだ。
一言で言うなら、なんかドロドロ腐った目だ。
しかも相談したくせに二日、三日後にはケロリとした顔で無かったかのようにされる。俺の経験上、こういう時は無視が一番だ。
「俺、帰るわ」
「えぇ、なんでだよぉ。俺の話を聞いてくれよぉ。置いてかないでよぉ」
彼女かッ!
放課後の教室の机に突っ伏したケイヤは俺にそんなことを言う。め、めんどくさい。
「用事あるんだよっ! ちょっ、腕掴むな!」
嘘にも方便。用事などないが、仕方ない。
だが、カバンを持って帰ろうとした俺の腕を掴み、駄々を捏ねる。
子供かよ……。
しかし、腕っぷしは俺の方が上。無理やり掴んだ手を放し、逃げるように教室を出た。
背後からケイヤの呻くような声がしたけど、無視!
☆☆☆
「あいつまじでめんどくさい」
校門を出た俺は、げんなりした顔でケイヤに対する文句をぶつぶつと言う。
はぁ、なんかこのまま帰るのもめんどくさいな。なんだか疲れてしまい、自炊するのも億劫だ。
「ラーメンでも食べに行くか」
思い立ったが吉日。俺は家の方向から進路を変更し、家から一番近いラーメン屋へと行くことにした。
そう思い、路地を右に曲がったその時である。
俺が曲がろうとした時に、ちょうど逆側からも曲がろうとした人がいたようで、俺はぶつかってしまった。
「おっと」
相手は小さい女の子だった。身長も俺のお腹くらいで怪我をしている様子もなく、ホッとした。
ぶつかる直前にタタッと走る音がしたので、走ってぶつかったのはこの子だが、しっかり周りを見ていなかった俺も悪い。そう思い声をかける。
「ごめんね。大丈夫?」
子供というのは自分よりも大きな人に話しかけられると怖いものだ。
そのため、できる限り優しい声を意識して話す。
女の子は俺を見つめて、なぜか急に顔をキラキラさせ、叫んだ。
「おうじ! おうじだぁ!」
「え?」
おうじ? ……王子のことだろうか。急に言われた謎単語に呆けてしまう俺。
王子って柄でもないだろうに。
見た目も髪切った後だが、特に関係はないだろう。
そう、髪切った後に学校に行ってみるも、誰も反応しない。遠巻きにじろじろ見られることが多くなったくらいだ。
女の子は俺を見たまま、おうじ! おうじ! と言い続けている。
俺がどうすればいいか悩んでると、ふいに聞き覚えのある声が俺の耳を打った。
「すみません。妹が……って、えぇ!?」
駆け寄りながら話しかけてきた女性は、俺を見ると驚きの声を上げた。
何事かと俺は女性の顔を見ると、俺も驚いてしまう。
「え!? 六道さんですよね?」
そう、六道の当主、六道瞳がそこにはいた。
前に見たキッチリとした服装ではなく、家着のようなものを着ていた彼女に、俺は急に親近感が湧いた。
少しイメージが違うことに、良い意味でだ。
というか、さっき妹と言ったような気がする。
つまり、俺をおうじ! と連呼する女の子は六道さんの妹ということになる。
なんて偶然だろうか。
「え、えぇ、そうよ。なんかこういう場所で会うと変な感じするわね」
少し照れ気味にそう言った。
六道さんは私服。俺は制服。確かにそんな感じがする。
「……家、ここら辺なんですか?」
妹と一緒に散歩、的な雰囲気だったため、俺はそう聞いた。
すると、六道さんは頷き、さらに俺に頼んだ。
「確かに近くよ。それとワタシのことは呼び捨てで結構よ。敬語もいらない。だって許嫁だものね?」
思わずドキッとする蠱惑的な表情を浮かべる。しかし、呼び捨てはともかく、敬語はダメだろう。
「わかりました。瞳さん」
「あら、敬語はいらないって言ったのにね」
ふふ、と笑う。おそらく、妹さんと混ざるから呼び捨てにしたかったのだろう。現に敬語に関してはさほど気にしていなさそうだ。
そして、更に付け足し。
「あと、許嫁ではありません」
少し、強くハッキリと言う。俺はそこだけは認めるわけにはいかないのだ。
「ワタシは諦めないって言ったわよ?」
瞳さんは強情だ。真っ直ぐ瞳さんの目を見た俺を、強く見返して話す。冗談で言ってる気配でもない。本気の部分もあったのだろう。
恐るべし……。どれだけ家のために行動するんだか……。
「諦めてください」
いくら強情でも譲るわけにはいかない。そんな雰囲気を感じ取ったのか、あっさりと手を引いた。
「まあ、いずれ、ね?」
「ね? じゃありません!」
はぁ……と俺は心の中でため息をつく。
そんなやり取りをボケーとした表情で、妹さんが見ていた。
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