第46話
『はーい! ではこの釣竿を持ってください!』
俺と日夏の、二人だけのイベントだが、しっかり大きな声で説明をする、係員。
虎の餌やりだが、餌を直接あげたり、投げたりするわけではなく、虎の格子の上に作られた土台に登り、そこから釣竿で肉を釣って与える方式だった。
ちなみに虎は二匹いて、カップルだそうだ。
そして、この釣竿。
一人だと虎の勢いで引っ張られることがあるため、二人で持つそうだ。
そうなると……必然的に密着することになってしまうのだが……。
「さ、早く持と!」
気にしていない様子で、ふんすっ! と気合いを入れて、やる気充分なようだ。
「じゃあ、持つよ」
「うん」
二人で釣竿を持ち上げる。
重量はそこまででもないが、ここに肉の重さと、虎の引っ張る重さが加わると思うと、妥当だろう。
持ち上げた瞬間、当然俺と日夏の肩がくっつき、柔らかな感触が俺の肩に伝わる。
何でもないように装っているが、心臓は早鐘を鳴らしている。
そこで、もう一つの事件が起こった。
俺が肉を吊るす前に、虎の姿を見ようとし、下を覗くと衝撃的な光景が目に入った。
俺は持っていた釣竿を放し、一緒に下を覗こうとした日夏の目を咄嗟に塞ぐ。
「きゃっ!」
それに声をあげる日夏。
いや、仕方ない。だってさ……。
あのカップル虎が交尾してるんだぜ!?
んなもん、見せれるわけねぇだろぉぉ!
天使が穢れちまう!
「え、ちょっと、なに!?」
急に視界が奪われたことに、もがく日夏。
「ちょっと落ち着け。今から手を離すから、虎を絶対に見ないでくれ」
「うん? わ、わかった」
日夏は未だ状況をのみ込めていないが、俺のマジトーンから、頷いた。
そして、俺が手を離した……瞬間、日夏の目を塞ぐ前に、日夏がどこを見ようとしていたのかを思い出した時にはもう遅かった。
「あ……ちょ!?」
「…………」
目の前には交尾している、虎二匹。
愕然と見守る俺を横に、日夏の頬がどんどん、朱いを通り越して真っ赤になった。
そして、チラッと俺をモジモジしながら見てこう言った。
「なんか…………すごいね」
なにが!? とはもちろん、言えない俺だった。
あれから動物園を出て、気まずい空気で歩く俺たち。
まだ日夏の顔は赤い。あぁ……天使が穢れを知ってしまった……。
俺は中二病的、ダークな思考に染まってしまう。
「その……ありがとね。見せないようにしてくれて」
ポツリと俺に向かい呟く日夏。
「いや、結局見せちゃったし、目塞いでごめんな……」
「全然気にしてないよ! でもさ……そのぉ……」
何か言いずらそうにこちらを見る。
そして、意を決したような表情をして、話した。
「そのさ……人間も同じなんだよね……?」
「えぇ!? いや、まあ。そうだけどさ……」
唐突に問われたことに驚く俺。
とりあえず、高校生なので、日夏でもある程度の知識はあるだろうと、肯定する。
「さ、さあ! 次はショッピングだよ!」
そして、強引に話を変えた日夏だった。
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実際に見たことあるんですよね……。
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