第42話
「ハッハッハ! どうした! お前の力はこんなものかー!」
「やめろ……! やめてくれ!」
俺は薄暗い場所で、ケイヤと対面になり、お互いを殴りあっていた。
いや、俺が一方的に殴られている。
くそ……! 勝てない……! 俺は自分の敗北を悟った。
仕方ない……と俺は負けを認めようとした。
だが、俺の微かに残っていた闘志の炎が、言おうとした口を塞いだ。
そうだ……! 俺は負けたくない!
小さな炎は、いつしか輝く大きな炎へと姿を変え、俺に力を貸す。
「うぉぉぉ!」
「な、なに!?」
叫び闘志を迸る俺に、初めてケイヤが動揺した。
「俺は負けない!」
「それは俺もだ!」
俺とケイヤ、二人の勝負への想いが、互いにその戦いを昇華させていく。
いつしか、俺たちの声は一つになり、気持ちが混ざり合う。
「「うぉぉぉぉ!」」
互いの一撃が、刺さったとき、決着はついた──
「俺の勝ちだな!」
ガッツポーズを挙げたのは──ケイヤだった。
「相変わらずゲームは弱いんだな、渚は」
「くそー! やっぱり勝てないか……」
場所は薄暗いゲームセンター。
とあるアーケードの格闘ゲームをプレイした俺たちは健闘を称える。
「俺に勝つなど100年早いわ!」
どや顔で言い放つケイヤ。
こいつ……。
「ほぼ全ジャンル俺に勝てないくせに」
俺はせめて負け惜しみと、そんな言葉を口にする。少しは悔しがると思ったのだが……
「おう、知ってるさ。だから勝てるジャンルでコテンパンにしてるだけだからなぁ!」
「お前最低だな!?」
よくもここまで堂々と言えるものだな、おい。
てか、こいつわかっててやりやがったな……。ゲスい……。
完全にお前も負け惜しみかよ。
「勝てる所で、全力で叩き潰すのは常識だぜ?」
「ぐぬっ」
否定はできないため、俺は悔しそうな声を出す。勝負は非情だもんな……。
「だが、それで誇ってるのはどうなんだ!」
どや顔がやけに鼻に付き、腹立つ俺はビシッと指差しで反論する。
「ふ、勝負で勝って嬉しがるのは当然だよなぁ!」
くっ、全く効いてない……。
完全に自分の世界に入ってやがるな。
「くそ、うざい」
「負け惜しみかね、渚くんや」
あー、うぜぇ!
ニヤニヤしながら俺の肩を突つき、ここぞとばかりに俺を馬鹿にする。
そこで、俺は隠し持っていた言葉の刃を放つ。
「黙れ、昨日で告白玉砕回数67回目」
「は?」
俺の情報に、ニヤニヤ笑っていたケイヤの顔がピしりと固まる。
「おま、おま、な、なんで知ってんだよ、お前ぇ!?」
すぐに再起動したかのような動きをし、焦る。イケメンが台無しな、情けない顔をしている。
「ふ、俺の情報量舐めるなよ」
今度は立場が逆転する。
これ見よがしに、おれは勝ち誇った顔をする。
そして、愕然としているケイヤを、フッはっはっ! と笑う。いや、嗤う。
「お前ストーカーだぞ!? 回数の把握はともかく、昨日は絶対にバレない所で告白したぞ!? 相手もばらすような人じゃないし!」
「親友舐めるなよ! お前が告白失敗した時のサインがあるんだよ!」
そう、こいつは表情には出ないが、行動には出る。
こいつには教えないが、ケイヤは玉砕した日は必ず購買でチョコクリームパンを買って食べる。
失敗した苦い記憶を、甘い食べ物で上書きしようとした結果なのだろうか。
アンニュイな気分でチョコクリームパンを食べてるのかと思うと、シュールで笑ってしまう。
つうか、こいつ一々行動がイケメンなんだよ。
そんなケイヤを嗤う俺も性格が悪いようだな。
「うぐぅ……」
涙目に睨むケイヤを見て、俺はつい、ニヤリと笑ってしまう。
「お前本当に性格悪いな!?」
いやいや、偶々。
悪気はちょっとしかないさ。
「なんでお前は俺が10やったことを100にして返してくるんだよ……」
「俺の主義」
「ないわー」
すでに立ち直っている様子のケイヤは立ち上がり、やれやれとため息を吐く。
「あ、バイトあるから俺、帰るわ」
時計を見たケイヤがそう言って帰ろうとする。
「あ、ちょっと待って」
俺はカバンから、こいつのために買っていた物を投げて渡す。
「ちょっ、おっとっと」
取り損なうことなく、受け取ったケイヤ。
それを見て、少し驚くと、再びため息を吐く。
「お前、そういうとこが憎めないんだよなぁ」
「さあ、なんのことかな」
俺が渡したチョコクリームパンを手に取り、見ながらそう呟く。
俺はたまたまカバンにあったのを渡しただけだし。
別に偶々だし!
って、俺もツンデレみたいじゃん。
ツンデレってか、男は素直になれないだけだな。
あ、それがツンデレか。
「じゃあな」
そして、ケイヤは帰っていった。
結局遊んだだけって何事?
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