退屈を語る
紳士諸君、吾輩が常々語るように紳士は慎みを持たねばなりませぬ。
ことさら知識をひけらかし、すべからくかくあるべしと尊大に語り、まるで
真理を探究するは万物を断ずるためにあらず、
おっと、既に
しかしそうであるからこそ諸君にはどうか御理解いただきたい。吾輩とてこのような
なれど世を見渡すに紳士の
無論、彼らとて
ふむ。
その顔は、では何をそれほどまでに嘆いておるのかと、疑問に思われえおられるようですな?
いやなに、たいしたことではないのですがね。吾輩が嘆いておるのは、昨今の
嘆かわしいとは思いませんか、することがないから退屈だなどと。
吾輩は思うのです。何故、紳士たるものが「退屈」を愛でないのかと。
森羅万象を理解し、それを愛でんとする求道者たる紳士が「退屈」を愛でぬとは不可解ではありませんかな?
古人の言にもあるではありませんか、「退屈は絶望の腹違いの姉妹である」と。
お気づきかな?「退屈」とは、「絶望」の「姉妹」なのです。
退屈はフランス語では「ennuyeuse」…つまり、女性名詞なのですぞ!?
もちろん、すべての性のある言語で「退屈」が女性名詞なわけではありません。しかし、ここであえて「退屈」を女性と考えてごらんなさい。そして想像するのです。
「退屈」はずっと貴殿を物陰からジッと見ているのです。なぜなら貴殿のことが好きで好きでたまらなくて構ってほしいからです。でも、決して貴殿を邪魔しません。邪魔したくないから貴殿が暇になるまでジッと待っているのです。
そして貴殿が暇になった瞬間にパッと顔色を変えて駆け寄ってくる。そして貴殿に纏いつき始めるのです。
貴殿がどれほど素気なかろうと、どれほど邪険に扱おうと、「退屈」は貴殿から離れようとしません。
なぜならいつでも貴殿の傍に居たいからです。
それでも、貴殿が何かしなければならなくなったとき、「退屈」は貴殿の邪魔にならぬようそっと離れるのです。
さあ、どうです?
これほど一途で意地らしい存在があるでしょうか!?
萌えてくるものがあるのではありませんか!?
そこに思い至った時、おおよそ紳士たる者ならばもはや「退屈」などと呼んではなりますまい?
そう「退屈ちゃん」と呼ぶべきなのです!
我々紳士はありったけの愛情を込めて、彼女を「退屈ちゃん」と呼ばねばなりますまい。
そして、「退屈ちゃん」を愛でてこそ、真の紳士たる存在に一歩近づけるのではありませんかな!?
いや、不詳この吾輩もこの境地にはようやくたどり着いたばかりです。まだまだ長く続く
しかし、一つの段階に達した時、また一つ見え方が違ってくるのも事実。
愛すべき「退屈ちゃん」の存在に気づいたとき、吾輩はこれまで「退屈ちゃん」に気づくことなく邪険に扱っていた未熟な吾が身を恥じ、そして激しく悔いたのです。
同時に、未だ「退屈ちゃん」を邪険に扱う者どもに対する怒りも感じました。
いえ、言ってくださいますな。吾輩もよく承知しております。それが単なる自己欺瞞にすぎないと。己の過去を棚に上げ、なおも他人を叱咤するは厚顔無恥の極みと言えましょう。
ですが諸君、吾輩はあえてその恥を飲みましょう。
ここで言わねば愛すべき後進たちが後々「退屈ちゃん」の存在に気づいた時、己を責め、悔恨に苛まれるのは火を見るより明らかなのですからな。
紳士諸君、くれぐれも忘れ給うな!
愛でてこそ…愛でてこその
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