紳士は語る

乙枯

変態紳士は語る

絶対領域を語る

 紳士諸君、吾輩は嘆かわしく思うのであります。


 ただ、丈の短いスカートとニーソックスを履き、太腿を見せしめ、それをもって「絶対領域」と称する風潮に、吾輩は不快を禁じ得んのであります。


 よろしいですかな、紳士諸君?

 御婦人がスカートを履いて身体を前に屈めるさまを御想像なさい。そしてその様子を後ろから見るとどうなるか、少しばかり考えてごらんなさい。

 御婦人が身体を前に屈めていくにつれ、スカートの裾は引っ張り上げられていくことでしょう。丈の短すぎるスカートが裾を引っ張り上げられていけば、その内に秘めたる下着をあらわにしてしまうことは必定。それではスカートはスカートたる役目を果たす事など出来ますまい。


 ゆえに、スカートの丈はその長さを必然的に一定以上の確保を余儀なくされるのであります。特に、裾がひるがえるようなたぐいのスカートならばなおさらでありましょう。

 御婦人の肌にピッタリ張り付くようなタイトなミニスカートならばいざ知らず、伸縮性の無い布を垂らしただけのスカートは丈を短くすれば軽くなり、軽さゆえに一層ひるがえりやすくなってしまいます。

 さすれば、最早下着を隠すためにはアンダースコートが必須となりましょう。

 にもかかわらず一定以上の丈の短いスカートは、もはやキュロットスカートか、あるいはアンダースコートの存在を警戒せざるをえぬのであります。無論、それらが悪というわけでは決してありませんが。


 おっと、話が脱線しておるようですな。

 では話を戻し、その一定程度以上の丈を確保したスカートを履き、ニーソックス、あるいはニーハイソックスを履いたうるわしき少女の姿を御想像なさい。果たして、少女の太腿は外から見えるものでありましょうか?



 まず見えないのであります!


 見えるわけが無いのであります!!


 ゆえに、太腿は見えてはならないのであります!!!



 にもかかわらず座った瞬間、風でスカートがわずかにひるがえるその瞬間に、チラリと覗く太腿・・・それをこそ真に「絶対領域」と呼ぶべきものなのであります。


 絶対領域とは、決してスカートを短くすることであらわにした太腿を指すものではなく、見えない筈の太腿を覗かせる事でスカートの短さを視覚的に強調する演出効果そのものを指すのであります。

 そして、見えてはならない筈の太腿が見えてしまう事で、少女の不用心さを、ひいてはその少女の純真さそのものを演出するものなのであります。


 嗚呼、見えてはいけない太腿が見えちゃっているねえ。危ないねえ。気を付けないとパンツが見えちゃうよぉ?・・・と、紳士諸兄の庇護欲を否応もなく掻き立てる。それこそが真の絶対領域なのであります。

 

 ひるがえって、ただ単にスカートを短くし、太腿を露にして庇護欲が掻き立てられましょうか?


 いや!掻き立てられるのは庇護欲ではなく劣情でありましょう!!


 劣情を狩り立てられた男子が果たして少女を守ろうと思うでしょうか?

 むしろ、あらわになった太腿のさらに奥へと、その情欲を掻き立てるのではありませんか!?


 それは断じて違うと申さねばなりますまい。

 見えているのは確かに同じ太腿かもしれません。しかし、その太腿が掻き立てるのは劣情ではなく庇護欲!庇護欲を掻き立てる太腿こそが絶対領域なのです。

 侵すべかざる神聖を紳士諸君に確信させる太腿・・・それこそが、絶対領域が領域と呼ばれる所以なのであります。


 しかるに、ただスカートを短くし、太腿をあらわにしたものを絶対領域と称するなど言語道断。ましてや腰回りの曲線美を強調するタイトスカートや、あからさまに劣情をもよおさせるレースで彩られたストッキングなどを組み合わせるなどもってのほか。キュロットスカートやホットパンツ、そしてアンダースコートなどは論外!

 そのようにしてあらわにした太腿は劣情を誘いこそすれ、庇護欲を掻き立てる事などあるはずもない。庇護欲を掻き立てないのならそれは絶対領域などではなく、単なる太腿でしかないのであります!!


 紳士諸君、誤解していただきたくはないが吾輩は決してそれらが悪いと言っているのではありませんぞ?

 それらをまとめて絶対領域と称することに否を唱えておるのです。


 紳士諸君、おおよそ紳士たるものは分別ふんべつというものを持たねばなりません。そして、何よりも品位を保たねばなりますまい。


 見えざる絶対領域にも、ストッキングに包まれた妖艶なる太腿にも、惜しげもなく晒された健康的な生足にも、それぞれ魅力はあります。地面に引きずるようなロングスカートも、清楚な膝下丈のスカートにも、膝上丈の健全なミニスカートにも、曲線美の美しいタイトスカートにも、極限まで脚をあらわにすべくアンダースコートを履いてまで短くしたスカートも、そしてホットパンツやジーンズなどにも、それぞれに魅力があります。

 それらはそれらとして、個々に愛でるべきものなのです。


 にもかかわらず、太腿さえあらわになっていれば十把一絡じっぱひとからげに「絶対領域」と呼んで持てはやすなど、品位ある紳士のすることではありません。それは、絶対領域ならざる太腿に対する冒涜にも等しい。おおよそ紳士にふさわしくない暴挙と言っても過言ではありますまい。


 いや、はっきり申しましょう。そのような蛮行は品位とは対極の、分別ふんべつなき下郎の所業であると!

 

 紳士諸君、吾輩は諸君をひとかどの紳士と、真理を求めつづける求道者と信ずるからこそ、こうして御忠告申し上げているのでありますぞ?

 ゆめゆめ、紳士としての品位を損なうなかれと!!

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