サル化ウイルスになったらしばらくお休みします

ちびまるフォイ

サルになった人間

「うきっ! うきーー!!」


背広を着たサルが道路に現れて、誰もが目を疑った。


まもなく駆けつけた人達により背広サルは捕まって山に帰されたが、

ものの数秒でふたたび町へと逆走してくるので困り果ててしまった。


すると、今度はサルの捕獲にあたっていた人たちが急に地面へ手をついて高い声をあげはじめた。


「うきーー!! うきーー!!」


持っていた網も落としてしまい、四足歩行で走り回っている。

体毛はみるみる濃くなり見た目は野生のサルになってゆく。


真実が公になったのはそれからしばらくしてからだった。


『みなさん、地球でサル化ウイルスが広がっています!

 感染するとサルになって理性を失な……うし……うきーー!!』


現場にいたリポーターはカメラの前でサルになってしまった。


街ではサルが大暴れし、飲食店は荒らされ放題。

サルになると人間が本能的に持っていた欲望や願望のタガが外れて好き放題。


人間が必死に守っていた理性や文明はあっというまに蹴散らされてしまった。


有識者たちは自分たちが理性を失う前に対策を講じる必要があった。


「世界遺産も今じゃサルの糞だらけです。ああ、嘆かわしい……」


「貴重な文献や絵画もサルによってずたずたです……」


「なんとかならないのか! このままじゃサルにすべてを奪われるぞ!」


「サル化治療薬はまだか!?」


会議室に治療薬の研究主任が入ってきた。


「できましたぞ! サル化治療薬ですぞ!」


「ようしよくやった。これでサル化騒動も終わりだな!」


「この注射器をサルの体の特定箇所にピンポイントで打ち込むと、サルから人間に戻せるですぞ」


治療薬入りの注射器を受け取った有識者だったが、ふと気がついてしまった。


「……あんなにすばしっこく動くサルにピンポイントで打ち込め、と?」


「ええそうですぞ。1mmでもずれてしまえば効果は十分に発揮できないですので」


「バカかお前は! そんなのできるわけないだろ!?」


「だったら捕まえるなりしてから打ち込めばいいですぞ?」


「1匹1匹ちまちま捕まえて治療できるか! それに……それ……うきーー!!」


有識者は急に壇上に上がって自分のお尻を出して荒らし始める。


「しまった! この中にサルウイルス感染者がいたんだ!」

「に、にげろーー!」


逃げようと出入り口に固まったところでサル化感染は一気に加速。

集まった人たちはサルとなって好き放題暴れ始める。


「こ、この世の終わりだ……」


ただひとりのこった有識者はひとりだけでシェルターに逃げ込んだ。

数十年分は生活できるよう備蓄がされている。


有識者はシェルターで身を潜めて静かに暮らし続けた。




数年後、有識者が外に出るとすでに世界は変わり果てていた。


完全に野生化したサルたちが町を我が物顔で横切っている。

すでに人間が生活していたような痕跡は失われていた。


ほぼすべてがサル化したことで、ウイルスは自然消滅。

残されたのはサルだけだった。


「もうサル化に恐れる必要はない。だっったら……!」


有識者はシェルターに護身用として保管されていた銃を手にとった。


「だったら、俺がこの世界を取り戻してやる!!」


有識者は銃でかたっぱしからサルを倒して回った。

サルだらけの世界では銃火器は掃いて捨てるほど転がっている。

弾が尽きることも武器が不足することもない。


「このサルどもめ! よくも人間の世界を!!」


有識者は目につく限りすべてのサルを見境なく倒していった。

町からはサルの気配が消え、残ったのは死体の山だった。


これで満足することもなく、有識者はさまざまな町を回ってはサルを倒していった。


「やったぞ……サルどもを蹴散らしてやったぜ……!」


有識者は返り血で汚れた顔を洗ってふと鏡を見たとき、鏡には別人のような自分がいた。

その顔は人間よりも獣に近く、うっすら口元は楽しげに笑っていた。


有識者はたったひとりで、この世界のすべてのサルよりも多くの動物を殺しきっていた。

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