第7話 7月23日
今日は日曜日で学校が休み、それに重と外に出かける約束があった。
なので、当然、気分が高揚していた。
約束まで少し時間があったので、暇つぶしのためにテレビを付けた。
中年の男二人が議論を交わしていた。
「組織犯罪に詳しい、椿さん、この、火喰鳥の一連の事件についてどう思われますか?」
「これは、まあ、反社会的勢力同士のいざこざに警察が巻き込まれたんでしょう、死人が出なくて幸いでしたね」
「では、なぜ、火喰鳥は学生を殺すという犯行声明をしたんでしょうか?」
「学生を殺すといったほうが、世間の影響は大きくなりますからね。まあ、そういった幼稚な自己顕示欲を持っているわけですね」
「では、世間で話題の稲妻君というのは何者なんでしょうか?銀行強盗の場でも現れて、今回も現れて、警察より先に事件を解決しているように思えますが?」
「それは、見方が一方的なだけです。つまり、その男が火喰鳥の敵対組織なだけでしょう。警察の邪魔をして火に油を注いているだけですよ」
これ以上は見る気がしなかったのでテレビを消した。
最近、こう言った報道が増えていた。
火喰鳥との騒動は、三屋の逮捕によって解決したように見えた。実際に四日経っても被害者は出ていない。
俺の生活に平穏が戻ったように見える。だがニュースでは俺が稲妻男と呼ばれて、正体は何者かどうか、騒動になっていたりする。
中には、三屋のやったことが俺の仕業だとすり替えられている、適当なニュースもあるぐらいだ。
俺が、善いことをしている、という論調や、俺が黒幕で、逮捕できない警察は無能だとかいう論調や、とにかく喧喧囂囂だ。
警察が俺の身元を明らかにしようとしている、との報道もある。
こういった状況を見て、もし顔を隠してなかったら、と思うとゾッとする。
俺の顔を隠す黒い布は、世間と隔てるフィルター替わりだ。
丁度いい時間になったので約束の場所に向かった。
澄んだ青空に、天まで登る階段のような入道雲がかかる。重の額に流れる汗が、日差しを反射して白く輝いた。
こんな広い敷地に二人きりだと、世界に俺と重しかいないように思えてしまう。
重が「これなんかいいんじゃない?」と呟きながら、そこにあったカラフルな自転車用ヘルメットを手に取り、俺の頭に重ねてシュミレーションしている。
俺が「これ、子供用じゃない?サイズが合わないよ」と返すと、「ほんとだ。うーん、なかなか良い物は無いね」と苦笑いをした。
もし、これがショッピングやハイキングやお菓子屋で食事とかだったらどれだけ理想的なデートだっただろうかと思うと悲しくなる。
実際はごみ埋立地で漁りをしているのだから、本当に悲しい。
元はと言えば、先日のドレッドヘアの男、ニュースによると三屋 弘鷹(みつやひろたか)と交戦した際にガスマスクのおかげで銃弾を防ぎ命拾いをしたことから、重が「前から思ってたけど今後ヒーローとして本格的な防護スーツが必要だよね!」張り切り始めてしまったことが原因だ。
こんな危険な行為を続けるつもりはなかったのだが、重の張り切りようを見ると嫌とも言えない。
それに、俺自身もこういった暴力と対峙する状況から抜け出せなくなっているように思っていた。
一度足を入れたら抜け出せない、底なし沼のように、徐々に浸かっていっていると感じていた。
そして、場面場面で、意図的に飛び込んでいって、その状況を楽しんでいる自分もいた。
だから承諾した。
三時間ほど探してバイクのバッテリーや壊れたノートパソコン、防刃手袋を見つけた。
それらを中学生の時に使っていたエナメルバッグに詰め込んで、すでに容量がいっぱいだが一番の目的は見つかっていない。
「やっぱり顔を隠せるっていうのは絶対必要だよね」
「うん、フルフェイスのヘルメットとかあればいいんだけどね」
先日の騒動のせいで俺の存在が稲妻男として世の中に知れ渡ってしまっている。
火喰鳥のような反社会勢力にも恨みを買っているだろうし、警察も正体を明かそうと躍起になっているらしいからめんどくさい。
身元が知られないように顔を隠すのは、今後もし電気を使って戦うとしたら必須だった。
最初は機動隊から拝借したガスマスクを流用しようと考えたが、銃弾が原因の穴とヒビで使い物にならない。
バイトもしていないので買う金はもちろん無い。
そこでヴィシュワさんならなんとかできるかと思い、相談すると素材さえあれば何とか作れるとのこと。
ただ今日は日曜日で店が忙しくヴィシュワさんは手伝えないとのことだったので、この場所を教えてもらって、二人だけで使えそうなものを探しているのだった。
「見つけた!」と重が叫んだ。
コンクリートのブロックが山のように捨てられている一角に、錆で赤く変色したドラム缶が横たわっていた。
そのドラム缶の下に隠すように黒いフルフェイスが挟まっていた。
重がそれを転がしてどかそうとしたが、まったく動く気配がない。
何度か試した後、自分の力では無理だと悟ったのか、こちらに期待する眼差しを向けてくる。
俺もいいところを見せようと腕を捲り、ドラム缶の中央に手を置いて力を込めた。
が、びくともしなかった。確かに異常に重たい。
こんなに重たいなんて中身はなんなのだろうか?
液体特有の重心が移動する手ごたえがないので、個体であることは確かだ。
「これなに入ってるんだろう?開けてみる?」
「やめなよ、なに入ってるか分からないし、変な薬品が入ってたらどうするの?」
「そしたら、電気能力にプラスして醜い見た目のモンスターになって悪を倒すよ」
「能力欲張りすぎ、絶対ろくなことにならないよ」
それもそうだと思い、中身はみないことにした。
一度手を離し、深呼吸して、今度はドラム缶の両端に手を置いた。
歯を食いしばり、全力の力を込めて押すとドラム缶が少し宙に浮いた。
その隙に重がヘルメットを取り出した。
それは少し凹んではいたが、綺麗な状態で頭のサイズも合いそうだ。
「ふふ、今、着けてみる?」
「ゴミ捨て場にあったものだよ、せめて、洗ってからにして」と俺が言うとくすくす笑った。
「いまさらだけどさ、勝手に持って帰っていいのかな?」
「多分、法律さがしたら何かに引っ掛かっちゃうだろうねー。まあいいんじゃない?管理している人がいないらしいし」
「放置されてるってこと?」
「うん、そう。もともと穀京市が委託していた管理会社があったんだけど、そこが良くない組織と繋がりをもってたもんだから問題になったことがあったんだよ。
いろいろあって結局、その会社が解散してね、市もなかなか後続の会社を決めないから放置されたままになっているんだよ」
「そんなこと、ぜんぜん知らなかった」
さすが記者の娘なだけあって、いろいろな世間のごたごたを知っているようだ。
重が続けて喋る。
「それでさ、ちょうどよく誰もいないしさ電気攻撃の訓練しない?ここならもの壊しても大丈夫そうだから」
「いいのかな……大丈夫か」
いくらごみ埋め立て場とはいえども、物を勝手に壊すのはちょっとした罪悪感を感じるが、無邪気に走りだした重を見ると忘れた。
重は10mほど離れたところで立ち止まり、コンクリートブロックを三つ縦に置き「これを的にして!」と大声を出した。
「かさねー危ないからもうちょっと離れてよ!」
「だいじょうぶ!敵が人質を取っているパターンで的確に当てる練習だと思って!」
重と的との距離は1m程度しか離れてない。
いきなり随分とプレッシャーがかかる練習を用意されたものだ。
だが俺も今までの戦闘を経て体内電気の扱い方も慣れてきた。
俺の体は筋肉に負荷を掛けたり、衝撃を受けたりすると、電気を生み出せる。
走ったり、殴ったり、蹴ったりしていれば問題ないのだが、体を動かさずに放電を続けていると電気が無くなってしまう。
例えば、この前のドレッドヘアとの戦闘のような、人質を取られて動けなかった場合に強い電気を生み出せなくなってしまう。
いろいろと試した結果、実に簡単な方法で解決できた。
手のひらを何度か握り直すだけで腕の筋肉が刺激されて充電できるようだ。
今回の場合もこのやり方でやってみよう。
握りこぶしを作り、開く、繰り返すうちに全身の血流が高速で巡るような感覚が起きる。
これが体が電気を帯びたという合図だ。
あとは体のエネルギーを放つイメージで放電される。
重から一番離れた端のブロックを狙うために体を向けて放つと、「ああっ!」と重が叫び尻もちをついた。
重にあたってしまった。全身の血の気が引いたが、すぐに立ち上がってようで安心した。
「ごめん、当たっちゃった、大丈夫?」
「うん、大丈夫。びっくりしただけ」
そしてコンクリートブロックには傷一つなく、全く当たっていないようだった。
「失敗か……。もう一回やってみるか、あ、重は安全なところでお願い」
「うん、分かった、その代わりこのブロック壊せるくらいの全力でできる?」
「やってみる」
コンクリートブロックを破壊するほどの電撃となると、かなり充電が必要となるな。
さっきの手のひら充電だけじゃたりないだろうし、その辺りに転がっているブロックを拾ってダンベルのようにして筋肉に負荷をかけた。
だが、いまいち足りない気がするので重にお願いして刺激を加えてもらうことにした。
すると転がっていた金属バットを持ち出して「これでケツバットする?」と笑顔で聞いた。
「え、お尻が粉々になっちゃう」
「ふふ、冗談だって」とくしゃっと笑ってバットを放り投げると、俺の前に転がって甲高い音を立てた。
重は俺の真後ろに立ち「それじゃあ、いくよ」という掛け声とともに尻に衝撃が走り、体中にエネルギーが漲る。
これならいけそうだ。
重が十分に離れたことを確認してからコンクリートブロックに向かって電気を放った。
昼でも視認できるぐらい明るい電光が走り、後から追うように衝撃音が走った。
「当たった?」
重が的を確認したが残念ながら外していたようだった。
だとしたら衝撃音はどこから鳴ったのだろうか。
どこからか焦げ臭い匂いがする、その方向を見るとさっき重が放り投げた金属バットが黒く焦げてくの字にひしゃげていた。
これが人だったらひとたまりもないだろう。電気の恐ろしさを知った結果だった。
結局、離れたところからピンポイントに的に狙って当てるのは無理。
と、そういう結論になった。
一時間後。
目的のものは大体みつかっているのに惰性でふらふらとしていた。
日差しがコンクリートや金属類の山を加熱して、逃げ場のない灼熱を作り出している。
その暑さから逃れるためにぼんやりと考えていた。
重と親しくなってしばらく経つ。
そろそろ勇気を出す頃なんじゃないだろうか。
ふと、夏休み前に告白するといいと桑原が言っていたのを思い出した。
長い休みを一人で過ごしたくないがゆえに成功率が上がるのだという。
これが本当だとしたら今日が最適な告白期間だということになる。
決めた。
告白しよう。
夏休みが終わったら。
多分夏休みに入っても、重との交流は絶えることは無いだろう。
一か月程度、しっかり準備してから告白したかったし、今すぐでは心の準備ができていない。
俺は一か月後に告白すると思うだけでも緊張している。汗がだらだらと流れてくる。
それを見た「もう帰る?結構暑くなってきたし」と重が聞く。
「確かに暑いね」
「もうちょっといてもいいよ」
「こんなとこで?」
俺は日に当たりすぎてのぼせあがったのか、おかしなことを口にしてしまった。
「うん、もうちょっといたいんだよ、重と」
「ふふ、わたしも」
重からの思わぬ返しで頭の回転が止まった。
今までの会話がどうしようもなく恥ずかしくなって、重の顔を見れない。
この場を離れたくなって一歩距離を空けようした瞬間、手のひらに暖かいものが触れた。
「ゴミ漁った手だよ、汚くない?」
「いいから、いいから」と微笑んだ顔を見て自然と握り返していた。
重がしおらしく言う。
「ありがとね、いろいろ付き合ってくれて」
「いいよ、いい経験になったし」
重が俺の手を強く握った。
「なんで璇臣くんの手から電気出るようになったのか、気にならないの?」
「気になるけど、考えてもわからないしね」
「私、いろいろと調べたんだ」
「何かわかった?」
「うん、……分かんない」と少し考えて答えた。
「そっか、重でダメなら絶対分からないな!」
「……そうだね」
重は少し元気が無いようだ。
少し躊躇したような間があり、俺に質問してきた。
「もし、道を歩いていて、目の前の知らない人が襲われていたら、その力を使って助ける?」
「そりゃ、助けるよ。罪悪感あるし」
「じゃあ、隣の県で人が襲われているのをニュースで見たら、助けに行く?」
「それは……しないと思う」
「それは、なんでかな?」
「えーなんでだろう……」
その質問は俺を試しているようで、圧迫感があった。真意を知りたくて彼女の顔を見るが、うつむいていて分からない。
しばらく考えるが、答えは出なかった。
答えが出なかったのは、暑くて頭が回らないからなのかもしれないし、答えは自分の中で分かっているが、自分の本性と向き合いたくないからなのかもしれない。
重は、俺が考えあぐねている様子を見て謝る。
「そうだよね、ごめんね、変なことを聞いて」
お互いに暑さで変になっているのかもれない。
こんなところに長い間いるのは体力を使うだろうし、熱中症になっても怖いので帰ろう。
「やっぱ、帰ろうか。暑いし」
「うん。ヴィシュワさんのところに行こう」
日も暮れ始めたころにダーマカレーに着いた。
中はクーラーが効いていて、火照った体を冷やすのはちょうどよかった。
ヴィシュワさんはレジにいて、ランチタイム最後の客の会計をしている。
少し時間が掛かりそうなので適当な席に座って休憩していると、会計を済ませたヴィシュワさんがやってきた。
「いいかんじのみつかりましたか?」
「ええ、なかなか」
エナメルバッグの中から、ヘルメットとバイクのバッテリーなど戦利品を取り出して見せた。
「おお、これは使えそうですね、あ、これサービスのマンゴーラッシーです」
ヴィシュワさんの手には一つのコップに二つのストローが刺さったラッシー。初めてここに来た時と同じ悪戯だ。
正直かなり喉が渇いているけど、これに反応するのは恥ずかしかったので、拾ってきたゴミに夢中な振りをしてラッシーのことは無視した。
ヴィシュワさんは能天気に「これあずかりますね」と言いながら戦利品をバッグに戻して、キッチンの奥に向かった。
キッチンの奥に吸い込まれていく彼を眺めていたら、重がコップをこちらにずらしてきて「ずっと飲みたそうだけど、飲まないの?」と聞いてきた。
気持ちを見透かされていたような気がして、上ずった声で「うん、飲むよ」と答えてストローを口にした。
すると重が顔を近づけて、もう一つのストローに口を付けた。
額がつきそうな距離の重の顔がある。
思わず口を外すと、重も口を外して悪戯っぽく笑った。
「なんで避けるの?」
「いや、びっくりして……」
「いいじゃん、私たちもう付き合ってるでしょ?」
「え?付き合ってるの?」
「付き合いたくない?」
「……付き合いたい」
顔から火が出るとはこのことだろう。脳がオーバーヒートしてこれ以上、言葉が出てこなかった。
思っていた告白とはずいぶんと違った。
好きだとか、愛しているとか、そういう言葉を交わすものだと思っていた。
唐突であっさりしていて、告白と呼べるかもわからない。それでも嬉しかった。
重もにこにこした顔のままで何も喋らない。
そして、コップを手に取りラッシーを飲み始めた。
氷がからからと鳴る音が妙に心地よくて聞き入っていたら「いや、なんか喋ってよ」と笑いながら言われた。
「ごめん、音聞いてた」
「なにそれ変態っぽい」
「つい出来心で」
「それ、変態のいいわけじゃん」
二人で笑い合って、さっき告白したのが嘘だと思うのようなとりとめのない話を続けていたらヴィシュワさんがうきうきした様子でやってきた。
「これでスーツがつくれそうですねー!」
重も同調したように言う
「やっぱり銃から身を守れるくらいの強度は必要だよね」
「ぼう弾は軍用のケブラーがないとむずしいですけど、そこらへんのほうちょうくらいなら防げるぐらいのぼう刃せいのうはできそうです。もってきてくれた手袋とぼう刃シャツを組み合わせれば、いけますよ。それにこのプロテクターと、地震ようの耐震ジェルをくみ合わせれば、車にひかれてもしなないでしょう」
「期待してる、ヘルメットはどんな感じになりそう?」
「かっこいやつにしますよ、きたいしておいてください」
「スーパーライダーに出てくるような最初は敵でも、のちのち味方になるようなちょっと悪い感じにしてほしいな」と無邪気に重が言った。
「わかりました!」
とヴィシュワさんはいったけど分かっていないと思うし、俺も分からなかった。
頭の中で、拾ったパーツを組み合わせてみても、スターウォーズに出てくる賞金稼ぎのようにしかならないだろうな、と思う。
そういえば、せっかく拾ったのに使い道が分からないゴミがあるので、聞いてみた。
「そう言えば、バッテリーとかノートパソコンとかは何に使うんですか?」
「それは売ります、かいはつの資金にあてます、それに手数料としてです」
「てっきり、電気をためるためバッテリーみたいに使うのかと」
「いえいえ、お金がなければなにもできないですからね、それに電気っていうのは、そう簡単にためられないんです」
シビアだが、言われてみれば当たり前の答えが返ってきた。
夕方になって、いつもの通り重の家まで送るという話になった。
ゆっくりと歩きながら重の家まで向かう。
帰り道の途中、やんちゃそうな集団がたむろしていることに気づいた。
その集団はじろじろと俺たちのことを見る。
今までの俺だったら、恐怖で避けていただろうが、何とも思わなかった。
重のことを考えて、その集団から離れてすれ違った。だが、もし何か絡まれたら、容赦なく力を使おうと、思った。
結局、何事もなく通り過ぎていった。
重が言う。
「なんか、璇臣くんと帰るようになってから暗い道でも安心して歩けるし、ありがたいね」
「そう?」
「暗いのは怖いんだよ、何がいるのか分からない死角の中を進んでいかないといけない本能的な恐怖。夏休みなのになんの予定も無い恐怖に似ているかな」
「それ似てるかな?」
「似てるよ。だからさ、サマーデイズっていうケーキ屋さん知っている?」
「あー知らないかも」
「そうだと思った、そこで買えるクッキーがめちゃくちゃ可愛くて、めちゃくちゃ美味しいらしいんだよね!それがダーナにできたらしいんだよ?今度行かない?」
「絶対行くよ!」
南地区の複合商業ビル「ダーナ」は市でも特に若者が集まる施設だ。
桑原に言わせれば、例えどんなに険悪な関係の彼女とでも、ダーナだったら一日中楽しく遊べる、とのことらしい。
そこの屋上にはおしゃれな展望スポットがあり、ここで大体のカップルがキスしているから、そこでキスするのは逆にダサい、と性格の悪いことを言っていた。
それを思い出したら、もう、そのことで頭がいっぱいになった。
俺から積極的に聞く。
「来週は空いてる日ある?」
「うん、来週になったら、夏休みだしね。空いてる……と思う。」
妙に言いよどんでいたので「微妙そうだったら無理しなくても」と重に伝える。
重は、それを否定するように力強く言った。
「いや、私、絶対に行きたい」
その言葉がすごく嬉しくて、ただ噛み締めていた。
彼女が聞いた。
「さっきした質問、覚えてる?」
「質問?」
突然の質問だったので、俺は分からなかった。
少しして、さっき、人が襲われているのをニュースで見たら、助けに行くかどうか、と聞かれたことだと思い出した。
だから少し間が空いて「助けに行くよ」と俺は答えた。
それを聞いて「ふふ、さすがだね」と重は笑った。
そのうち重の家に着いた。
「じゃあ、また明日ね」
「また、明日」
名残惜しくて、重が家に入るまで見送っていた。
ダサくてもいい、来週、頑張ろうと思った。
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