第6話 テイム
テイム
紀光研究所に着いた私は、色んな魔物の子供がいる部屋に通された。ちなみに皐文と、乃理は先に帰った。
「で、ここで何すればいいのかな?」
「……ここの魔物を配下に加えてみてくれ。どれだけ調教スキルが働くか見てみたいんだ」
あ、昨日の続きかな。たしか、私はテイムスキルの確認だよね。昨日は嫌だったけど今ならやれそうな気がする。
「うん、いいよ。私やってみるよ」
もうすでに近づいて来ている魔物、恐らく、河童だと思う。その河童に手を伸ばして、皿に触れる。
「あ、あれヤバくない?」
ん? 珠樹が何か私の後ろに回ってきたよ? 私はその動きにつられて後ろを見る。っと、
「何、この変態河童。なんで私のお尻に手を伸ばしているの?」
その河童を珠樹が捕まえている。その後、近くの池に投げ込んだ。
「ああ、これはね、尻子玉取ろうとしていたんだよ」
「尻子玉? 何それ」
「……人間の肛門内にあるとされていた臓器、それを取られるとふぬけになったり、死んだりする物だ」
「え、じゃあ私危なかったんだ! なんでそんなことするの」
目の前の河童に怒ると、どこかに逃げてしまった。けど、これでまた振り出しだね。さて、他に私にもテイムできそうな子は、っと。
「んーっと、じゃああのユニコーンは?」
「……まだ君のレベルだということ聞かないかもな」
「え、レベルとかあるの?」
「……いや言葉の綾だ。君の技量だとまだできないだろうという事だ」
「そっか。あ、あの大きい鳥は?すごい綺麗だね!」
「あれはね、鳳凰っていう霊鳥だよ。オスの方が鳳でメスが凰。聖天子が現れる際に飛んでくると言われているんだ。それ以外の時は、あそこの梧桐の木に留まって、あの奥の竹林に飛んで行って竹の実を食べていたみたいなんだけど、今一羽しかいないから、飛んでいけないんだよね。どうにかして、凰の方を探してあげないとなんだけど」
「どうして一羽じゃ飛べないの?」
「この鳳凰は、比翼鳥の伝承も混じっちゃったみたいで、一羽じゃ跳べないんだ。ほら、羽が片一方にしか生えていないでしょ」
「本当だ。だから、凰を探しているんだね」
「そう、で、この世界にいることは分かっているんだけど、どこにいるのかは分かって無いんだ」
「にしても、なんで離れ離れになっているの?」
「最良世界で、何かあったとしか分かってないんだ。多分だけど、政権交代しようとした際に何かあって、こっちの世界に捨てられたんじゃないかな?」
捨てられた? どういう事だろう? 言葉の綾かもしれないから黙っとこう。
「まあ、近い内に捜索隊を結成する予定だからそれまで待っててね」
「うん、うん?」
どうして、私が待ってなきゃいけないんだろう? あ、助けるのを楽しみにしてて的な事かな?
「楽しみにしておくよ、でもなかなかテイム出来そうな魔物がいないね」
「う~ん、じゃあ、このかまいたちはどうかな?」
珠樹が捕まえているのは、尻尾が風で渦巻いている、そしてその尻尾は刃物のようになっていて、手足から鎌のような爪が見えている魔物だった。
「じゃあ……そう言えば、テイムってどうするの?」
「……あ、知らないのか。なら簡単に説明する。先ず、自分に懐かせることだ。餌をやる、これが鉄板だな。次に頭をなでて、名前を付ける。それで完了だ。じゃあ、そのかまいたちをテイムしてみるといい」
「うん」
此方を向いて、警戒している。そんな感じが見て取れる。
「……これをあげるといい」
と何か投げて渡された。これは?
「苺?」
「……この子は苺を」
「食べるんだ!」
そーっと目の前に持っていくと、尻尾を持ち上げ、苺に向かって、
「危ない! ちょっと何! このかまいたち! 手が斬られるかと、思った!」
尻尾が私の手の苺に振り下ろさせた瞬間、私は驚き、苺を手放した。すると、その苺は切り刻まれて、地に落ちた。
「……苺を切り刻むのが、好きなんだ。って言おうと思ったんだけど」
「そうなんだ! じゃあ、私の手も切り刻まれる一歩手前だったんだ!」
あっぶな! でもなんか、此方を面白い物を見つけたとでも言いたそうな目で見ているように見える。そーっとかまいたちの頭に手を持っていく。すると、何の抵抗もなく触れ、頭をなでさせてくれた。
「君の名前は、マムルでどうかな?」
『契約完了。個体名:マムル認証。これからマスターアミの配下に入ります』
「……では、あとどれくらい配下に入れられるのか実験だ。とりあえず、河童もやってみるか?」
「うん」
「……なら、これを与えてみろ」
きゅうりかな? きゅうりかな? 渡されたのはやっぱりきゅうりでした。
「それを、そこの川に流されないように笊に置いておくと」
言われた通り、笊にきゅうりを置いて、少し待つ。すると、河童が大量に現れて、きゅうりを食べ始めた。中には取り合う者、分け合いながら食べる者もいる。その中から一匹を選び、頭をなでる。
「君の名はアッダーだよ。宜しくね」
『契約完了。個体名:アッダー認証。これからマスターアミの配下に入ります』
「……まだいけそうだな。なら、ジャッカロープとかどうだ?」
そう言って神奈は、鹿の角のようなものが生えた兎を捕まえてきた。そして、珠樹から人参が手渡され、それを与えて頭をなでる。
「君は、ジョセフだよ」
『契約完了。個体名:ジョセフ認証。これからマスターアミの配下に入ります』
「……成程、まだいけそうか?」
「うん、直感だけど、あと一匹はいけそうかな?」
「……わかった。なら、今回は大型の魔物で」
「うん、どんとこい!」
「……モーザ・ドゥークとかどうだ?」
そこへ珠樹に連れてこられたのは仔牛ほどの大きさの真っ黒な犬だ。
「まあとりあえず、肉かな?」
珠樹から、今度は生肉が入った皿を渡される。
「……いいか? これをあげながら、頭を撫でて、テイムするんだ。間違えても食べる前、食べ終わった後にはするな」
「う、うん」
肉を鼻の前にそっと持っていくと匂いを嗅ぎ、すぐ噛み付いた。
「今だよ!」
頭をなでて、え~っと名前名前、
「じゃ、じゃあ、コナンで」
『契約完了。個体名:コナン認証。これからマスターアミの配下に入ります』
「……で、どうだ? まだテイム出来そうか?」
「う~ん、もう無理っぽいかな」
「……分かった。今のところ、それが限界のようだな、ああ、後」
「何?」
「少し悪魔の方に用がある。少し、眠ってくれ」
「へ?」
何やら後ろから布を当てられて、意識がなくなった。
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