第9話 鬼

 鬼


 何やら、大きな音で目が覚めた。この音は、銃声と鶏の鳴き声? 


「あっちだよね? って何? この壁。さっきまで無かったよね?」


壁に向かい歩き出す。すると次の瞬間、


「ぐぁあああああイタイイタイ!」


悲鳴が聞こえた。何事! 私の足は速くなる。あれ? 足がいつもより速くなっている気がするけど、体重が重い。


「何故だろう? この壁、超えれそうにない気がする。いや、私の身体能力がどんなに上がっていても、超えられるわけないよ。あ、あそこまで壁があるのなら、そこまで走ればいいよね」


走る。壁の無くなる所まで走る。やっぱりいつもより足が速い。どうなっているの?


「よし着いた。って、へ?」


あれがコカトリスだろうという感じの、尻尾が蛇、大きさは私より大きい鶏が6匹が二人の人間を襲っていた。


「助けないと! でも私が行っても……」


『行ってみろよ。今のお前なら行けるさヒャヒャヒャ』


「また悪魔! 私にできるわけないよ」


『なら、あいつら見捨てるのか? 可哀想になあ。一人はお前に尽くしてくれている奴だぜ? なんつったかな……』


「もしかして、乃理?」


『ああ、そうだ。乃理だ乃理。復活するとはいえ、後2回殺されれば本当に死ぬぜ?』


駆け出した。あの助けてくれた、それに優しくしてくれた乃理を見殺しにはできない! 行っても、何の力にもなれない。それは分かっている。けど、私は、壁に近くに落ちていた、手裏剣で音を出しながら、


「こっちに来て! コカトリス!」


叫ぶ。仲間を助けるために、自分を鼓舞するために。怖くないと言うと嘘になる。けど仲間の為に、という意思と、もう一つ、何故かさっきから戦えそうな気がしている。


「二人を離して!」


全コカトリスがこちらを見た。もっと注目を集めないと! そう思い、手裏剣を投げた。しかし、それはコカトリスに当たることなく、夜闇に消えていった。他に飛ばせるものは? 走りながら考える。そうだ! 教えてもらった魔術で! 魔力を使って、十の火球を指の先に展開。そして、


「ファイアー!」


火球を飛ばす。2匹に当たり、コカトリスは燃え尽きる。残りは逃げようと森の方へ走り出すが、逃がすわけがない。もう一度、火球を生成、飛ばす。今度は全部着弾。これで、安心かな? 恐る恐る二人の元に向かうと、一人は息をしておらず、もう一人の乃理は、


「助けていた……ひぃ!」


そこまで言うと、壁を作り隠れてしまった。


「ど、どうしたの? 乃理。どこかにまだ敵がいるの?」


「その声は、アミ様? 助けてください! 怖い鬼がいるのです」


「鬼なんてどこにもいないよ」


そーっと壁が開く。


「ほら、私だよ」


「ピィーーー! いるじゃないですか! しかも、鬼からアミ様の声がしている様な、気がします!」


また、壁が閉まった。どうしたのかな? 私が鬼ってこと?


「イッタ! 何かな!」


いきなり背中から刺されたような痛み。振り返ると、仮面を額左側に乗せている様な、黒い服の少女が、私を睨んでいた。


「貴様! 何物でござるか!」


あれ? さっき見て死んだと判断した子かな? 生きててよかった。でも、


「なんで、刺したのかな? 私敵じゃないよ」


「貴様は敵だろう! 現に乃理を襲っているではないか!」


「いや、私は助けに……」


「おとなしく殺されろ! 化け物!」


短刀を構え、此方に斬りかかってくる。って私化け物じゃないもん。化け物じゃ、


「少し待ってください! 千代。この方の言動が少し気になります」


あ、壁が無くなった。そして、乃理が出てきたよ。


「あなた、鏡を見たことありますか?」


「うん、あるよ。ボサボサの金髪に、青色のジト目、肌だけいい感じの私が映るよ」


「確かに、アミ様の顔の特徴と一緒です。ですが、貴女の顔はこのようなものです」


ん? 手鏡? そんな物見たって、私が映っているだけなんじゃ?


「って、怖! 何この鬼! 顔がゴツゴツしていて、赤い肌、角は生えた時と同じ一本だけど、な、なんで! なんでこんな顔に! 体みても怖い感じだ! え、え、どうなっているの? 筋肉隆々だし、服が、虎柄のビキニだし!」


「あなたは、アミ様ですか? それとも、自分をアミ様と思っている、変出鬼ですか?」


「私は、アミだよ! こんな姿だけど、アミ・ホーネットだよ!」


「だが貴様、先ほど乃理殿を殺そうとしたであろう? やはり、今すぐ応援を!」


「だから、ちが! ちがくて! うわーん!」


私は逃げた。殺されるかもしれない、皆を呼んできて、袋叩きにされるかもしれない。何でこんな目に! なんでこんな見た目に! 森に入り、無我夢中で駈ける。何処か安全な場所は、途中で鵺を見、ワイバーンを殺し、鬼蜘蛛を睨みつけた。今が何所か分からない。けど只々走った。そして疲れ果てて倒れたのは、山頂の岩の上だった。

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