第10話 ワイバーン

 ワイバーン


「はっ、あ、朝かぁ、変な夢見たなあ、鮮明に覚えているんだけど」


周りを見渡すと、悪魔の夢を見る前の場所、歓迎会の会場だ。周りのみんなは片づけを始めている。つまり、さっきまで見ていたのは悪夢でいいのだろう。


「アミ様! 目を覚まされましたか。良かったです!」


隣に座っていた乃理が安堵してくれた。彼女はかなり疲労が溜まっているようで、目の下にクマがあり、怪我もしている。腕なんか血が大量に出ている。


「いや! 私の心配してる場合じゃないよ! 乃理の方こそ大変そうだよ!」


「わたし……はだいじょう……」


乃理はそこまで言うと、横に倒れた。私は思わず立ち上がり、どうしよう、どうしよう! と治療用道具がないか周りを見渡す。


「ちょ、乃理、大丈夫!?」


「すぴーすぴー」


あ、寝てた。だ、大丈夫かな?


「ホーネット、こいつは君に謝りたかったそうだ」


「あ、シュー。それはどういう事? 私謝られるようなこと無いんだけど」


「よく解らないんだが、昨日の夜、皆を助けてくれたのに、怯えてしまったことを謝りたい、ってのと、百地が攻撃したことも申し訳ないって言ってたな」


あれって夢じゃないの? 確かに知らない人が夢の中では出てきていたけれど、たしか、夢って脳の整理のはずだから、見たことない人とか出てこないはずなんだけど。


「ねえ、百地ってどんな子?」


恐る恐る聞く。夢の中で見た子だと、あの夢は夢じゃない事が確定してしまう。


「呼んだでござるか?」


と後ろから声がする。昨日夢で見た子じゃありませんように! そう頭の中で祈りながら振り向いた。


「ああああ! やっぱり昨日の夢で見た子だ!」


夢は夢じゃなかったみたいです。ってことは、あの鬼の体はどうなったのかな? 見に行ったほうが良いかな?


「何でござるか! 何故そんな大声を出しているのでござるか!」


「ごごごめんね。というか、初めて会うよね。アミ・ホーネットだよ、よろしくね。……攻撃してこないよね?」


むっとした顔をしていた、百地は笑顔を作り、此方に跪いて、


「拙者は百地 千代でござる。昨日、アミ殿の名を騙る鬼が出たのでござるが、拙者が追い払ったでござる!」


褒めてほしいんだろうな。そんな顔してるもん。でもさ、あれ、


「ごめん、あれ私だったんだ。私はあれ夢だと思っていたんだけど、今ので、確定しちゃったよ」


「という事は、ご褒美は?」


「無しだよ」


「そんなー!」


そのまま前に倒れた。というか、


「貴女も、傷だらけだね。とりあえず休んで」


「はっ、ありがたき幸せ!」


あ、その場で寝た。それはそうと私は、


「どこに行くんだ? アミ。そっちは、森だぞ?」


「鬼の体がどうなったのか知りたいから、山に行ってみようかなって」


「成程、だが、森は危ないから、川から回っていったほうが」


「大丈夫だよ。多分」


「ちょっと、待てって!」


話を聞かずに、私は森に入る。そして、昨日の話や、光景を忘れていたことに気づく。この森、魔物だらけだったんだ! ペガサスに、コカトリス、ワイバーンに八咫烏、他にもうじゃうじゃ。あ、これマズイ。けどいかないと、鬼がどうなったのか解らない。だからこっそりと、茂みに隠れながら向かおう。


「ほへ?

茂みに入ると、そこには、


「ワイバーンの雛かな? いい子だから静かにしていてね」


あ、頷いた。話通じたのかな? けど、このルートも魔物がいるから、やっぱり、川から行くかな? そう考え、森からこっそりと出ようとしていると、


「ど、どうして追ってくるの?」


なんか、ワイバーンの雛がついて来た。と、とりあえず森から出よう。ワイバーンの雛にシッシッと払いのけるように手を振る。しかし、ワイバーンは、首を捻るだけで、向こうに行こうとしてくれない。まあ放っておいていいかな? そう判断して、出来るだけ音を立てずに森から出た。


「ふわー、怖かったー」


森から出ると思わず声が出た。このまま、乃理が起きたか見に行こうと思い、歩き出すと、足音がもう一つ、後ろから聞こえる。


「誰? ってさっきの雛かぁ。ってなんで? ついてきちゃったのかな?」


「きゅい」


あ、かわいい。赤いボディに、お腹周りは茶色。身長は40cmぐらいかな? 頭が大きく、その上に卵の殻を乗せていて、産まれた手なのが見てわかる。となると、私、


「もしかして卵泥棒と間違われるんじゃ!」

そう思って森の上を見ると、二匹のワイバーンが、此方に向かって飛んできている。


「これマズイんじゃ……!」


「ギュワーーーーーーー!」


思わず耳をふさぐ、かなり恐ろしい鳴き声。とりあえず


「逃げなきゃ!」


しかし、どれだけ強く地面を蹴ろうとも、どれだけ速く駆けようとも、空を飛んで、追いかけてくる竜種からは逃げれない。そして、雛も私についてくる。


「ちょっと、帰ってよ!」


「きゅい?」


何故かついてくる。そして近くにいた、シューも私と共に走りながら、


「どうした? ホーネット。なんかワイバーンが上に見えるが、後お前の後ろから追ってくるのはワイバーンの雛か?」


「何故か知らないけど、あの雛についてこられて、あのワイバーンはこの雛を追ってきているみたいなんだ!」


「君の能力に調教はあったか?」


「あ、あるけどどうして?」


「その能力で、ワイバーンの雛が引きつけられているんだろう。だから、親は子を取り返しに来ているんじゃないか?」


「じゃあ、どうすれば」


「倒すしかないな」


「そんなー」


「覚悟を決めるんだ」


「……うん!」


後ろをちらっと見ると、すぐそこにワイバーンは迫っていた。私達は前に倒れて、突撃を回避。でもどうやってあいつらを倒せばいいんだろう?


「とりあえず、弾幕を張るしかないか。ホーネット、遠距離攻撃ができる武器か、魔術は使えるか?」


「うん、火の球なら出せるよ」


「ならば、それを大量に撃ち出してくれ。あたしも、木を成長せて、応戦する」


「よく解らないけど、分かったよ」


火の球を片手に一個、もう片手に一個。形になり次第撃ちだしていく。しかし、一発も当たらない。一匹がこちらに向かい突撃を開始した。これなら! 火の球を飛ばすが、上下左右と避けられる。もう目前だ。どどどうしよう!


「ホーネット! 一度火の球をやめて、氷の壁を!」


「う、うん」


火の球を止めて、氷の壁を生成、これの後ろに雛も来る。それと同時にゴゴゴと地鳴りがして、


「木?」


刺々しい木。かぼちゃ型の実の付けた木が生えたのだ。それの成長が終わった様で、氷の裏にシューも来る。その木に何か、いやおそらくワイバーンがぶつかったようだ。そして、木が大きく揺れ、木の実が落ちて、


「ぐぎゃああああああああ」


「よし、スナバコノキがうまくいったな! で、あと一匹は?」


周りを見渡す。何処に? 後ろかな? そちらには、急降下してきたワイバーンを素手で押しとどめている木下の姿が有った。


「アミ様! こいつはどうすればいいですか!」


「そいつやっつけてくれると嬉しいな」


「了解!」


そのまま羽を握りつぶし、持っている、鍬で止めを刺した。


「つよ!」


そして、雛は喜んでいるし。

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