第5話 修行

 修行


「まずは、陣の製作を覚えましょう。陣の作成は、水、土、金、木が得意とします。ですが、貴女はどれも」


「あ、水なら得意属性にあったよ。どういう意味か分からないけど、隠匿能力というのに書いてあったよ」


さっきの紙を取り出して、詩織さんに渡す。彼女はそれに目を通すと、


「成程、先ほど珠樹たちがどよめいていたのは、そういう訳ですか。あの者は呪いを放って死にましたからあり得ますね」


「あなたも私が誰かに憑りつかれたって言うのかな?」


「いいえ、生まれ変わりだと思えますけどね」


「ふーん」


この話題、嫌だな。何か私を通じて、違う人物を見られているみたいで、でも、亡くなった人だというから、むやみに嫌と言う事もできない。だからやんわりと、


「あんまりこの話題しないでほしいかな」


やんわりになってない!


「はい、そうですね。私達が無神経でした。では、水の陣の作り方をお教えしましょう」


あれ、この人、気にしてないよ。ん? 地面に大きな円が現れた。


「その円の線上に氷を出現させてください」


「いきなりそんなこと言われても、私、魔術の使い方知らないよ」


「そうでしたね、では、そこから説明しましょう。先ず魔力孔ですが、さっきので空いたはずなので、これで、魔力を外に出したり、操ったりできるはずです。では、魔力の出し方ですが、まず人差し指を伸ばして、そこに気持ちを集中させます」


言われた通り、人差し指を伸ばして、そこに意識を集中する。


「わ、なんか出たよ」


それは小さな火だった。指先に火が乗っている。熱くはない、けどほんのり暖かい。てか、危なくない? 指から飛ばすように、振ってみるが、飛ばない。


「やはり、貴女の元々の得意属性は火なのでしょう。それが、悪魔の力等で、色々付属されたのでしょう。なので、一番得意な火が出たのです」


「これ、どうすれば飛ぶの? 指にくっついていて怖いんだけど!」


「ああ、それなら、誰もいない方向に向かって、指をむけて、魔力の供給を断ってください。集中をやめればいいですよ」


「う、うん! 分かったよ」


指を壁に向けて、集中をやめる。魔力が断たれた火は真っ直ぐ飛び、壁に当たる前に消えてしまった。


「成程、飛びましたか。この場合、飛ぶのと、落ちるパターンがあります。では、今度は水を出しましょう。水に関連することを思い浮かべるといいですよ」


「はい」


私は指の先に集中力を向ける。冷たい、液体、飲み物、生物の70~80%を占める物、循環する物等出来る限り思い浮かべる。


「出来たよ」


指の先から水が出ているのが解る。そこまで勢いはないけど、ちょろちょろと出ている。


「水が出ましたね。では今度は、これを凍らすイメージを持ってください」


言われた通り、凍れとイメージする。すると、地面に着いた水が、凍りだした。


「成程、こんな感じなんだね」


「どうですか? 使い方は分かりましたか?」


「うん、解ったよ。得意魔術属性の魔術を脳から命令を出して、それに魔力を乗せればいいのか、と言う事は」


私は今度、闇を出してみようと思い、イメージする。しかし、ここで思い至った。


「闇って何?」


「闇を出そうとしていたのですね。まあそうなりますよね。では、闇魔術を使える人を呼びましょう。来るまでの間、少し、氷の壁を作る練習をしていて下さい」


「わかったよ」


とりあえず、線の上に氷の壁を作ることに挑戦しよう。今度は掌から水を出して、それを凍らせていく。それを繰り返し、どんどん高い壁にしていこう。もちろん、土台も増強していく、そして、


「やった! できた!」


氷の壁が、低いが出来上がった。頭の高さより低いが、しっかりとした、壁だ。そこに、詩織さんと珠樹がやってきて、


「あ、氷の壁で来たんだ! 呑み込みが早いね」


「そうですね。ですが、小さいのと、綺麗に真っ直ぐ立っているので、のちに少しだけアドバイスをしましょう、ですが、初めてにしては上出来ですよ。頑張りましたね」


私は照れてしまう。やっぱり褒められるのはうれしい。少しにやけてしまう。


「ありがとう。で、珠樹が闇属性の魔術が使えるの?」


「うん、そうだよ。私の闇属性魔術はすごいんだよ! だって、闇の精霊に憑りつかれたぐらいなんだもん」


と珠樹はどや顔をしている。いや、確かそのタイプの人って、


「それって、確か、箱の中の精霊の話だよね。封印された箱を開けると、火、水、風、土、光、闇の精霊が飛び出すって、私のいた世界でも同じようなことがあったらしいけど、もう何年前か忘れた上に、闇の精霊? に憑かれた人は殺されたらしいよ。なんでも、重犯罪を犯したとかで」


「え、私そんな重犯罪犯さなかったよ」


「いいえ、危ないところだったじゃないですか」


「そんなー! まあいいや、闇属性の魔術の使い方を教えるよ」


珠樹は手を前に出す。その手には、何か透明な球体が完成する。そして、その球は真っ黒になった。


「これって、当たるとどうなるの?」


「圧縮されるよ」


「まあ、ここまでの闇を作るのも珍しいのですけどね」


「まあ、この方が解りやすいかなって」


「それはそうですが」


「え、圧縮ってなんで? ってもしかして、これって、重力ってこと? え、でも、そんなすごい重力ってこの世に存在するの?」


「ブラックホールっていうんだって。リアルワールドのその上のリアルワールドでは、確認されていたって話だよ」


「え、リアルワールド?」


「珠樹、リアルワールドの話は、やめておいた方が」


「リアルワールドに行ったの? どんなところだった! すごい栄えているんだろうなぁ。でも、二つ上のリアルワールドで確認ってことは世界を作る際に消されたっていう宇宙って場所の話かな」


私は知っている。この世界が作りものだと、私の世界では常識だ。でもリアルワールドに行って帰ってきた人の話は聞いたことがない。あれ? 二人はなぜかフリーズしている。何かまずいこと言ったかな?


「ええっと、リアルワールドは衰退しました。あれは、人の住めるような場所じゃないよ。それに、あの世界の人たちは過去に戻ることを考えていたもん。それにリアルワールドって名前だけど、その上にもまだリアルワールドを作った世界があるんだ。まあこれは神奈ちゃんの考えではだけどね。ブラックホールは、確か銀河の中心にあるっていう光すら吸い込まれる天体なんだって、でなんでリアルワールドを知っているの?」


「え、常識じゃないの? この世界は作りものだって。じゃあ元の世界というのかな? それとも、一番最初の世界かな? そこは、どれだけリソースがあるんだろうね?」


「常識なんだ……ってことは私達の世界では知っている人がほとんどいなかったから、びっくりしたよ。けど、私にその話されても分からないかな。神奈ちゃんと話したらいいと思うよ。そんな事より、今は闇属性魔術の話だよ」


「あ、そっか。で、そんなヤバいもの作って大丈夫なのかな?」


「うん、だからこの周りにある膜は絶対に物理攻撃では壊れない物なんだ。だから」


重力玉は、珠樹の手を離れた。本当に大丈夫なのかな? するとそれは、2メートル離れると、光を放ち、周りの草木を揺らして消えてしまった。


「と、まあこんな感じかな? ただこれを作るには、さっきの魔力膜が生成できないと作れないみたいなんだ」


「つまり、光だけを吸収する力なのか。成程ね。けど、中の光はまだ生きていたことになるのかな? それとも、圧縮されて、固まってたのかな?」


「うーん、私にはわからないからとりあえずやってみたら」


「うん」


私は手を出して、重力をイメージする。引き寄せる力、弱い力より弱い力、いつも感じている物。しかし、


「できないよ。どうイメージすればいいのかな?」


何も出ない。どういう事なんだろう?


「う~ん、まず何物にも負けない壁をイメージして、その次に重力をイメージかな?」


最強の壁、最強の壁……って、


「無理無理、無理だよ! 何物にも負けない壁なんて、想像できないよ!」


 「まあそうだよね。闇属性魔術が得意な子って大体諦めて、得意属性無しみたいな感じになっちゃうよ」


「そうですね。やはり、珠樹がおかしいのですね」


「おかしい言うな!」


と珠樹が詩織を小突く。ポカポカという音が鳴りそうな感じでもある。


「それでは、氷の壁についてお話ししましょう。先ず、地面に杭を刺すように氷を差し込み、次に、ドームを作るように丸くしていきます。最後に、指令は出せるように、そして、戦況が見えるように、頭上にすぐ閉められる蓋を付けるようにしてください」


成程、それなら、ドーム状なら外からの遠距離攻撃の威力を少し減らし、貫通を防げる。それに元の私の壁だと押したら滑るようなものだったので、杭を張らせるのもいい手だ。そして、上に戦車のコマンダーキューポラ(戦車の外を見るための上についているアレ)みたいなものもつけるのには納得だ。そこから酸素も取り込めるし、氷は、外が透けて見えるが、声は届かない。指示を出すには必要な部分だろう。なら、氷自身の強度も上げてみよう。まず、勢いよく水を発射し、地面に穴を開け、そこに氷を作る。そして、精度を上げて、ドーム状にとまではいかないけど、カーブした壁を作った。


「こ、これが限界かな」


「成程、なかなかよくできましたね。では、この裏にいてください」


「え?」


まさかとは思うけど、で、でもこの壁がうまく作れてなかったら? 自信がない。でも二人が、


「アミちゃん、頑張れ!」


「早くやったほうが楽ですよ」


「わ、私には無理だよ。せめてあれの強度を試してからじゃないと」


攻め手の抵抗をした。すると、詩織さんが、カードを取り出して、

「兵科札展開、射撃兵起動」

そう呟いた後に弓矢が出てきた。その弓の弦を引き、矢を放つ。それは氷に到達すると、少し刺さって止まった。


「あれなら大丈夫ですか? これを貴女は中でこれを見ながら指揮をしなくてはなりません。なので、あの裏でこれを受けきる訓練をしましょう」


確かに、貫通はしていない、けど怖い! 足が震える! けど、指揮をとるならしょうがないのかもしれない。それに、自分が戦うより、こっちの方が安全そうだ。だから、


「分かったよ。腹を決めたよ」


氷の裏に行く。少し溶けてきているね。少し氷を増強する。


「じゃあ行くよ! 頭を出さないでね!」


そう言うと、珠樹は魔法陣を作り、そこから弓矢を取り出した。そして、二人は矢を番えm大量に放つ。私は怖くて、目を背けそうになるが、ダメだ! 戦う時は私がしっかり指示を飛ばさないとダメなんだから、しっかり見れるようにしてないと! 目を開き、珠樹と詩織さんをにらみ続ける。敵だと思い、見続ける。怖い、怖い! 怖い!! 何度も何度も矢が飛んできて、氷を少しずつ砕く。何分経っただろうか10分ぐらい、いや20分? やっと攻撃が止まった。

「3分で100本、射て壊れはしない。成程、いい守りです、では出てきてください」


頭の中で響く。私は氷の上から出てきて、二人の元に向かう。そして3分と聞いて、


「3分! 20分ぐらいたったかと思ったよ、死ぬかと思った!」


 怖かった! まだ足が震えている。これを戦いのたびに耐えなきゃいけないのか。


「恐怖は必要です。ですが、その氷の裏から、指示も出さなくてはなりません。周りを見れるようにしたほうが良いですね。では今日はこれぐらいでいいでしょう。皆が待ってますよ」


その声の後に歓声が起き、


「入ってきていいですよ。皆貴女の特訓を見守っていたようですよ」


その声と共に、角の生えた、恐らく悪魔憑きであろう子達が入ってきた。


「さすがです、アミ様!」


「すごいぞ! さすがアミ様!」


「この後、皆で、貴女様の歓迎会をいたします。どうか一緒に来てください」


人に酔いそうになる。だけど、少しうれしい。こんなに人に歓迎されるのは初めてだから。


「行くよ。よろしく頼むね」


「「はい!」」


そこに水を差すように、


「あ、アミ、明日は午前、10時に来てください。みっちり修行しましょう」


「うっ、はぁい」


そう返事して、会場に向かった。


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