第14話 思い切らなければいけない時もある
あれから、たんまりとスイーツと
「お姉ちゃん、作戦失敗したんだけど!」
そう言いながら部屋に飛び込むと、イスをくるりと回転させてこちらを向いた姉は、私ところまで歩いて来て憐れむような目をした。
「そんなことだろうと思ってたわ」
「お姉ちゃんが提案したんだよね?!」
このバカ姉、失敗するとわかっていてやらせたと言うの?なんて酷い人間なのだろう……。
「まあ、小説のネタになるからいいんじゃない?」
「そりゃ、使うけど!それでも私の心の傷は癒えないからね?!」
「そんなのチーズケーキ食べたら治るでしょ。冷蔵庫にあるわよ」
一体私をなんだと思って……え、あるの?じゃあ話は別だ。
今日のことを小説の話に組み込んで、序盤のコメディ部分にするためにも、甘いもので脳を再稼動させないとだからね!
決して、私欲のためではないとわかっていただきたい。
「今、嬉しそうな顔したよね?もう、あーちゃんは可愛いなぁ♪」
「ちょ、やめてよお姉ちゃん……」
頬を突いてきたり、ムニュムニュといじってきたりする姉から逃れようともがくも、しっかりと逆の腕でホールドされてしまって抵抗できない。
「ふふふ……私から逃れることなど不可能!では、この可愛らしいお耳を―――――――――」
「調子に乗るなっ!」
「ぐふっ?!」
耳に口を近づけてくる姉に身の危険を感じた私は、反射的に肘をみぞおち目掛けて振り下ろしていた。
苦しそうに倒れ込む姿に罪悪感はあったけれど、悪いのはお姉ちゃんだから!妹の耳を狙うなんて……。
「あーちゃん……安心して。新しい作戦を……考えておいた、から……ガクッ」
「自分でガクッとか言うなし」
色々と言ってやりたい所ではあるけれど、とりあえずは姉が差し出した作戦とやらが書かれているらしい紙に目を通してみる。
「……って、こんなのできるかい!」
一郎の前でこれをやれって?恥ずかしすぎるわ!てか、見損なわれるわよ!
私は変なこと吹き込みやがって!という気持ちを込めて、倒れている姉の背中をガシガシと踏みつけてやった。
「あっ……そこそこ……もう少し上かな」
「……じゃあ、次は仰向けで行こっか」
「お姉ちゃんが悪かったから!死んじゃう、お姉ちゃん死んじゃうから!」
必死に命乞いをするので、ひとまず見逃してあげることにする。けれど、次におかしなことをした時は容赦しないからね……。
耳を狙うなんてもってのほか。そういうのは一郎だけって決めてるんだもん!……なんちゃって。
「妄想の中で楽しそうね♪」
「っ……妄想なんてしてませんけど?!」
「お姉ちゃんが一郎くんに頼んできてあげようか?一日妹と寝てあげてくださいって」
「……それでも、一郎なら本当に寝るだけになると思うけど」
「確かに、一郎くんならそうなりそうよね」
お姉ちゃんが「なら、あーちゃんから行っちゃう?」なんて言ってくるから、脇腹にコークスクリューを叩き込んでおいた。
「次はもっとまともな作戦を考えてよ」
「わ、わかりまひたぁ……」
仰向けで倒れる姉を放置して、部屋をあとにする私は、ドアの外でもう一度手に持った紙に目を落とす。
『色仕掛けで釘付け作戦!』
そこにはそう書かれていた。恥ずかしい作戦ではあるけれど、上手くいく可能性も無くはない。
無かったことにしてしまうのも惜しい気がした。
「これくらいしないと、一郎は見てくれないのかな……」
これはとりあえず保留にしておこう。もうどうしようもなくなった時に使う手段として。
「考えたって仕方ないわよね。今日のところは、序盤の部分のメモ書き程度にしておこうかしら」
私は執筆部屋へとはいると、そう呟きながらイスに腰かけ、紙を引き出しの一番奥へと入れた。
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