第13話 スイーツは甘いが世知辛い
俺は今、評判のいいスイーツ専門店に来ている。
「このケーキ、すごく美味しいよ!紅葉ちゃんも食べる?」
「……いらない」
「釣れないな〜♪じゃあ、
「え、俺?」
「ほら、あーん♡」
「あ、あーん……お、美味いな!」
「だよね〜♪」
「…………」
ケーキは美味しいし、店の雰囲気もいい感じだしで文句無しのはずなんだけど……とにかく紅葉が怖い。
せっかく来たがっていた場所に来れたと言うのに、どうしてこんなにも嫌そうな顔なのだろうか。
「紅葉には俺からあーんしちゃおうかなぁ……なんて……」
「……ふんっ」
冗談を言ってみてもこれだ。もう手に付けられないレベルで激おこプンプン丸モード。
何とかして欲しいと音無さんに視線を送るが、彼女も苦笑いしながら首を横に振った。
「私、お邪魔だったのかな」
「そんなことないと思うぞ?そうだよな、紅葉」
「……どうかしらね」
はっきりとは口にしないが、これはそういうことになるのか?音無さんも居心地が悪そうな顔をしているし、出来れば紅葉にも楽しそうにしていてもらいたいんだけどな……。
「私、やっぱり帰りますね。お二人で楽しんでください」
「音無さん、待って」
立ち上がろうとする彼女を椅子に座り直させ、「そこにいてくれ」と伝えてから紅葉の手を取って席から離れる。
邪魔にならないところまで移動すると、不満そうな顔の紅葉に聞いた。
「どうしてずっと不機嫌なんだ?」
「……別に」
「お前は沢〇エリカか。何も無いのにそんな顔なら、俺はお前を嫌いになるぞ?」
「っ……何も無いわけじゃないけど……」
「なら教えてくれ、悪いところがあるなら直す。お前が楽しそうじゃないと、俺も嫌なんだよ」
「そ、そういうんじゃないから」
こいつ、頑なに理由を教えてくれないな。もしかして、俺には言えない事情ってことなのか?
「もしかして、この後用事があったか?それで焦ってるとか?」
「違う」
「あ、トイレ我慢してるんだろ!遠慮しなくても、その間に帰ったりしないぞ」
「どうしてそういう発想になるのよ!」
「なるほど、せいr―――――――――」
「しねっ!」
「ぶへっ?!」
思いっきり腹を殴られた。かなり痛い……。
フラフラとよろめく俺の胸元を掴んだ紅葉は、顔をグイッと寄せて睨みをきかせる。
「このパンチに免じて、言う通りにしてあげる。でも、次は2人だけで来ると約束しなさい」
「……もしかして、2人っきりじゃないから怒ってたのか?」
「っ……そうよ、悪い?!」
そういう事だったのか。あんまり話したことの無い音無さんみたいな人がいると、紅葉もちょっと気まずいんだな。
「悪くないぞ、近いうちにまた2人で来ような」
「……うん!」
「次回から使える割引クーポンももらえるみたいだし」
「……なんか気に食わない」
「えっ?!」
その後、「私と来る時は割引クーポンは使わせないから」と訳の分からないことを言われたけど、俺には何となくわかるぞ。
安く食べたいと思っているなんて思われるのが恥ずかしいんだよな。
相手が店員さんだとしても、『たった100円引きのために来たのかよ』と思われているかもしれないと感じたら、顔が熱くなっちゃうもんな。
「じゃあ、今日のところはそれで機嫌直してくれるか?」
「ええ、わかったわ」
「じゃあ、音無さんのとこに戻るか」
そう言って元の席に帰ると、何故か音無さんの姿がない。代わりに書置きのようなものが残されていた。
『彼氏に会ったのでお先です!お会計はこれで!』
書置きの下に割り勘分の金額が置かれている。それを見た俺たちは顔を見合わせると、小さくため息をついた。
「……なんのための話し合いだったんだよ」
「でも、また来るのは約束よね?」
「はいはい、紅葉にならいつでもお供しますよ」
「ふふっ、ありがとう」
まあ、笑顔になってくれたからよしとしようかな。
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