第12話 遠回しじゃ分かってくれない

「あはは、おもしろーい♪」


 私は現在、昨日立てた作戦を実行中である。その作戦とは、その名も『一郎いちろうに嫉妬させて告白させちゃうおう大作戦』。

 仲良くする男役として選んだ渉流わたるくんには、「そのままじゃねぇか」とダメ出しされたけれど、大事なのは名前より中身よ!

 渉流くんと仲良くしているところを見せて、仕方なくボディタッチなんかもしちゃって、一郎の私への想いに油を注ぐの。

 そうすれば、焦りに焦った一郎はド直球に言ってくるはずだわ。『紅葉のことが好きだ』って!


「だから、―――――――――なんだよ」

「へぇ、そうなんだ〜♪」


 渉流くんの話なんて、ほとんど聞いていない。JKがみんなもちあわせている万能返事技術を駆使して、意識の9割を一郎の反応観察に使いつつ、上手く会話を成立させていた。

 ただ、一郎がこちらを気にする様子は全くない。しかし、ここで焦る必要は無いわ。

 日常会話をしているだけで気にするなら、一郎は既に私に告白してきているはずだもの。ここまでは想定済み。

 私は渉流くんと目配せをすると、「もぅ、やだ〜♪」と言いながら彼の肩に触れた。そう、ボディタッチである。

 好きな人が他の男にこんなことをしていたなら、それはもう頭を抱える事態。おまけに渉流くんは一郎の友達だから、焦りはさらに加速するはず……。


「……あれ?」


 けれど、一郎はこちらを見向きもしていない。スマホの画面を見ながら、ヘラヘラと笑っていた。

 私より動画の方が面白いっていうの?そんなの許せない……こうなれば最終手段よ。


「渉流くん、今日の放課後遊びに行かない?」


 私は確実に聞こえるように、声を大にしてそう聞いた。数人の男子生徒がこちらを見たけれど、そんなの眼中にない。

 私が気付いて欲しいのは一郎だけ。それなのに。


「ここはこうやって解けばいいぞ」

「ほんとだ、ありがとう!」


 どうして他の女子に数学を教えているのよ!私はあの子以下ってこと?数学以下ってことなの?3次関数ごときに負けたの……?


「なんなのよっ!」


 バン!という音が教室に響く。それは私が机を叩いた音で、感情が先走りした行為であった故に、叩いた本人なのに驚いてしまった。

 しかし、一度穴の開いた風船に空気が戻らないように、感情も出口を見つければ吐き出し切るまで止まれない。

 私は一郎の目の前まで歩いていくと、彼の肩を掴んで激しく揺らした。


「一郎は、私のことなんてどうでもいいと思ってるの?!」

「……え?」


 突然のことに困惑する一郎。そりゃそうだ、彼はただ普通にしていただけ。おかしいのは私の方なんだから。

 そう、私は一郎に嫉妬させようとして、自分が嫉妬してしまった。本当に情けないしマヌケ過ぎると思う。

 けれど、この時の私には彼の表情が、とぼけているように映ってしまった。


「どうして私が渉流くんと話してるのに、何も言ってこないの!」

「だって、2人で楽しそうに話してたからな。そんなとこに入っちゃ悪いだろ」

「うぅ、この鈍感……」


 そうだった、一郎はいつも私がして欲しいこととは別の方向に気を遣うのだ。そこにあるのは優しさであることに変わりはないけれど、惜しいが故にすごくもどかしい気持ちにさせられる。


「……あっ、そういうことか!」


 私が頭を抱えていると、彼は突然そんな声を上げた。それに反応して、私も顔を上げて一郎を見つめる。

 ようやく分かってくれたのかもしれない。

 一瞬、そんな淡い期待を抱いた。というのに……。


「もしかして、俺に誘って欲しかったのか?」

「……へ?」

「どこか話し方とか笑い方がわざとらしいと思ってたんだよ。前に言ってたスイーツのお店、自分から行きたいって言いづらかったんだよな?」


 ……ああ、そうだった。一郎が嫉妬するなんてありえないのよ。だって、そもそも私の意図に気付けないんだから。けれど―――――――――。


「そう!やっと分かってくれたのね!」


 ―――――――まあ、いっか。デート出来るし。


「今日の放課後だよな、渉流も来るか?」

「ああ……いや、俺は遠慮しとく」

「そう?残念ね」


 私が睨みをきかせたおかげか、渉流くんは断ってくれた。よくやってくれたわ、エセヤンキーのくせに。

 予定とは随分と違うけれど、これはもはや勝利と言ってもいいのでは?頑張った私に甘いご褒美よ!

 そう心の中でガッツポーズをする私。しかし、現実はそう甘くはなかった。


「スイーツのお店って言った?私も一緒していいかな!」


 邪魔者が――――――――現れたから。

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