第11話 恋愛アドバイザー翠

「ああ、もう!いいアイデアが浮かばない!」


私は書いていたメモをクシャクシャに丸めて、ゴミ箱に放り投げる。

今日一日頭を悩ませ続けていたけれど、結局一郎いちろうから告白させる方法なんて思い浮かばなかった。

そもそもの話、一郎が私のことをどう思っているのかすら分からないのだから、分かるはずがない。

もちろん幼馴染として大切に思われている自覚はあるけれど、それ以上は?無い無い、多分友達としてしか見られてないし。


「どうすればいいの……」

「あーちゃん、どうかしたの?」

「ひっ?! お、お姉ちゃん……いつの間に入ってきたの?!」


突然耳元で囁かれ、反射的に体が仰け反る。見てみれば、姉のみどりが私の手元を覗き込むように見ていた。


「ノックしても返事がないから入っちゃった♪」

「も、もぉ……びっくりしたよ……」


お姉ちゃんはいつもいきなり現れる。

本人によると、気配を消すのが上手いだけらしいけど、される側としては毎度心臓への負荷がすごいからやめてほしい。


「ところで、あーちゃんは何について悩んでたの?」

「別に何も……」

「さては一郎くんのことでしょ?」

「分かってるなら聞かないでよ!」

「ふふっ、お姉ちゃんにはなんでもお見通しだからね〜♪」


こんな感じだから、お姉ちゃんには私が一郎のことを好きということが既にバレているのだ。

なので、今は時々相談に乗ってもらっている。お姉ちゃん、ぽわぽわしているように見えて恋愛については強キャラなのよね。


「そうだ!お姉ちゃん、どうすれば一郎から告白してくれると思う?」

「そうねぇ……」


お姉ちゃんは顎に手を当てて悩むと、にんまりと笑って私に顔を近づけてきた。


「お姉ちゃん、実は一郎くんのこと気になってたの。あーちゃんがのんびりしてるなら、今のうちに取っちゃおっかなぁ♪」

「ふぇっ?! だ、だめだめ!一郎は私のなんだから!」

「ふふ、冗談よ」


意地悪な笑みを浮かべて、頭を撫でてくるお姉ちゃん。どういうことかと混乱していると、今度は私の鼻先をつんつんと突いてきた。


「今、取られたくないって思ったでしょ」

「……思った」

「好きって気持ちが強くなった気がしなかった?」

「……した」

「じゃあ、私がもし本当に一郎くんを取っちゃったら?」

「……お姉ちゃんを消す」

「わ、我が妹ながら恐ろしいわね。でも、恋の何たるかはわかってるみたいで安心したわ」


……どういうことかまだ分からない。ただただ、自分が一郎を大好きだということを自覚させられただけのような気がするけど。


「あーちゃんは一郎くんの前で、他の男と仲良くするだけでいいの」

「し、嫉妬させるってこと?」

「そう。少しでも気があるなら、それだけで一郎くんは焦るはず。そうなれば、あとは2人きりにさえなれれば余裕よ」

「その手があったか!」


私はイスから立ち上がると、すぐにスマホを手に取ってとある人物へメッセージを送る。


『手伝ってくれない?』

『おう、任せとけ』


これで準備はOK!幼馴染なんだから、少しくらいは私に気があるはずよね。これなら失敗するはずないわ!


「お姉ちゃん、アドバイスありがとう!」

「愛する妹のためなら、お姉ちゃんは何でもするわ。作業が終わったなら、先にお風呂入ってきてくれる?」

「はーい!」


元気に返事をして、着替え片手にスキップしながら廊下へと出る。そんな私は、部屋に残っていたお姉ちゃんが呟いた言葉を聞くことが出来なかった。


「絶対に成功するわ、ね。一郎くんは鈍感だから……」

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