第5話 幼馴染が有名人になるとちょっと嬉しかったりする

 翌日の学校で、紅葉あかばはたくさんの人に囲まれていた。

 みんな、「小説読んだよ!」「面白かった!」「続きはいつ出るの?」と質問攻めしているものの、コミュ力の高い彼女はその全てに笑顔で返している。

 俺があんなことしたらツンツンと毒のひとつでも返して来るだろうに、自分の書いたものが褒められて嬉しいんだろうな。幼馴染としても鼻が高いよ。


「何変な顔してんだよ」

渉流わたるじゃないか、久しぶりだね」

「昨日も会っただろ」


 そんなごく普通のツッコミをしてくるのは、俺の友達の金志季かねしき 渉流わたる

 制服をいい具合に気崩していたり、少しばかり口が悪かったり、髪をヤンキーのようなイカつい金色に染めていたりするが、性格は普通に良いといういたって普通の高校生。

 まあ、普通じゃないことと言えば、顔がちょっぴりイケメンで他校の女子からラブレターを貰ったり、家がすごい御屋敷だったりすることくらいだな。


 ……うん、めっちゃ羨ましい。俺、どうせなら太郎たろうじゃなくて渉流みたいなラノベ主人公に似たかったよ。


「渡流は読んだか?紅葉の小説」

「当たり前だろ。同級生が小説を書いたなんて、すぐに話題の中心になるだろうからな」

「さすがはミーハー気取ってるだけあるね」

「言い方に刺があるな……」


 ヤンキーのような見た目をしているから勘違いされやすいが、渉流は流行に敏感なタイプだ。

 まあ、渋谷とかにいる女子高生のように順応できるわけではなく、必死に情報を仕入れてなんとかついて行くタイプだけど。そういう意味での『ミーハー気取り』である。

 俺はそういうのに興味が無いから、彼の変化を見て初めて今それが流行っているということを知るんだよね。

 ミルクティーの中に黒豆でも落としたのかと思って全部取り出しておいてあげたら、それがタピオカという謎の物体だ教えられたこともあった。

 そんな真反対な俺たちがこうして友達になったきっかけは、隣の席になった時に英語の授業で会話をしたことだ。

 英語が全く出来なかった彼に向かって、『You are an idiot君は馬鹿だね』と言ったら、次の日に意味を調べてきたのかすごく怒られた。

 それから英語の授業がある度に、彼への悪口を英語で言うのが習慣になって、彼はそれを調べて来るというのが当たり前になった。

 そうしているうちに、何でも言い合える中にまでなっていたのだ。友達って、どんなふうにできるか分からないもんだね。


「お?小説家様がこっちに来たぞ」


 渉流の指した方向へ顔を向けると、紅葉がこっちに向かって歩いて来ていた。なんだか表情が険しい気がする。


「紅葉、不満があるなら渉流に言って」

「はぁ?! なんで俺なんだよ!」

「お金がある人は心が広いって聞いたから」

「俺への当て付けか?俺の小遣いは月2000円だぞ!」

「……なんかごめん」

「謝られると余計懐が寒く感じる」


 俺たちのそんなやり取りを眺めていた紅葉は、「別に不満を言いに来たわけじゃないわよ」と呆れたようにため息を零す。


「今日の放課後、教室に残っててくれる?先生に呼び出されてるから、待ってて欲しいの」

「ああ、それなら待ってるよ。勝手に先に帰ったりしないでね」

「そんな小学生のかくれんぼでのいじめみたいな事しないわよ」


 彼女は「すぐに終わると思うから」と言い残すと、また人の輪の中へと戻っていった。おそらく、呼び出しというのも小説関連だろう。

 夢を応援している身としては、その待ち時間さえ誇らしく思えそうだ。……いや、待ち時間は待ち時間だな。


「ヒューヒュー!教室に残っててくれる?なんて、俺もかわいい女の子から言われてみたいぜ」

「モテるのに言われたことないの?」

「俺がモテるのは他校の女子だけだからな。この学校じゃ、俺の扱いは犬のフン以下だ」

「……確かに」


 渉流は確かに良い奴だ。ただ、それは男子である俺の視点での話。

 下ネタを口にしたり、すぐに肩を組んできたり、からかったりしてくる彼は、その性格を知っているこの学校の女子にとっては天敵。

 話せば楽しいやつなんだけど、やたら女子からは嫌われている。そこも俺が彼と仲良くなった理由の一つかもしれない。

 俺も女子とはあまり仲良くなろうとしない方だから。


「待ってる間、何しとこうかな……」


 俺はスマホを取り出して、暇つぶしゲームの一覧を眺め始めた。

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