第2話 大きな過ち
「どの辺にあるんだ?」
祝賀会の翌日、俺は学校帰りに本屋へ立ち寄った。目的はもちろん
実のところ、書いている姿は見ていたのだが、俺は彼女の小説の内容を読ませてもらったことがない。
ただ、『売れるものが書けたら読んでもいい』という約束をしていたために、晴れてこうして探しに来れている。
いくら昔からの仲と言っても、こういう部分はしっかり『小説家』と『読者』の立場でいたい。編集さんから本を貰うなんて、なんだかずるい気もするし。
それに、俺が買うことで少しでも売上に貢献出来たら、今後も紅葉が小説家としてやって行ける可能性が上がるかもしれないだろ?
応援したいんだ、あいつがずっとキラキラした夢を持っていられるように。
「えっと……これか?」
教えてもらったタイトルを見つけ、『モミジ』と書かれていることを確認して棚から抜き出す。
なるほど、あいつが書いたのはライトノベルなのか。挿絵を書いているのは『
俺はその1冊と、以前から気になっていた別の1冊を持ってレジへと向かった。
どんな物語なのか、今からすごく楽しみだ。
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「ただいま」
「おかえりなさい、
家に帰ると、母さんが掃除をしていた。我が
ちなみに妹の名前は
「部屋にお客さんが来てるわよ」
「そのニヤついた顔、紅葉だろ?」
「さすが私の息子ね、勘が鋭いわ」
「母さんがわかり易すぎるんだよ」
俺の母さんは昔から相変わらず、紅葉が家に来るとこの顔をする。隣人で幼馴染なんだから、そりゃ暇な時には来たりするだろう。
「どうぞごゆっくり〜」
「俺はお客さんじゃないけどな」
からかうような視線を向けてくる母さんに背中を向けて、俺は二階にある自室へと向かった。
一応、先に人がいることはわかっているので、入る前に扉をノックをしておく。
すると、何かが落っこちるような音が聞こえた後、『は、はーい!』という返事が返ってきた。
「入るぞ」
『ど、どうぞ!』
自室なのに了承を得てから入るなんてのはおかしい気もするけど、以前に紅葉に怒られているから念の為だ。
「い、いらっしゃい」
「客はお前の方だろ」
「……そうだったわね」
今日はどこかよそよそしい気がする。いつもなら紅葉用のクッションに座っているはずなのに、今はベッドの傍に腰掛けているところもおかしい。
もしかすると、俺の集めているグラビアウォーズのカードが見つかってしまったのだろうか。バストサイズがそのまま攻撃力になっている対戦型カードゲームのことだ。
それで伝えるタイミングを伺っているとか?
……いや、どうやらそうじゃないらしい。
「紅葉、ベッドで横になってたのか?」
「えっ?! ど、どうして?」
「朝、綺麗にしたはずなのにシワがついてるからな」
「そ、それは……」
彼女は数秒の間沈黙した後、「うっかり転んで突っ込んじゃったのよ!」と言った。
確かに、それならシワの件もさっき聞こえた音の件も納得がいく。よそよそしいのは、転んだのが恥ずかしいからってところだろう。
「そ、それで……一郎。……もう読んだ?」
「いいや、今買ってきたところだからな。今から読もうと思ってたところだ」
俺はそう言ってカバンの中から本を取り出す。が、その表紙を見た紅葉は素早く俺の手から奪い取ると、「何これ」と呟いた。
「いや、それはもう1冊買った別の……」
「そんなこと聞いてない。どうしてこんなもの買ってるのって聞いてるの」
「面白そうだったから、ついでにと思って……」
「へぇ?本当にそうなのかしら。私の本の方がついでなんじゃないないの?」
俺はここで自分の過ちに気がついてしまった。確かに本屋で1冊だけ買うというのは、労力や交通費面から考えてももったいない。
しかし、紅葉にとっては初めて本屋に並んだ自信作だ。それを他人の小説と一緒に買うという行為は、まるで口直しにもう1冊用意したように見えてしまってもおかしくない。
これは金銭や効率の問題では無く、小説家としてのプライドの問題なのだ。幼馴染ならもっとよく考えておくべきだった……。
「この浮気者!私の小説だけを楽しむつもりでいなさいよ!」
「も、申し訳ありませんでした!すぐに返品してきます!」
「ちょ、そこまでしなくていいから!」
紅葉は飛び出そうとする俺の前に立ち塞がると、少し俯きがちに言う。
「その代わり、どっちが面白かったか……後で教えてくれる?」
その問いに「もちろん」と答えたその後、『どちらを答えても照れか怒りかで叩かれる』という難関が待っていることを、僕はまだ知らない。
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