第6話
私はスタッフの驚きを隠した笑顔の向こうにある表情に気がつかないフリをして、来週から週に二回、50分のコースを受けることになった。トレーニングと、食事の指導を二ヶ月受ける運びとなった。お試しの簡単なトレーニングを私服のままやらせてもらう。いわゆるストレッチという体操を先ほどの25歳ほどの女性としただけなのに10分もすれば軽く汗ばんだ。自分ではこんな運動ができるはずはない。まして、思い通りに痩せることもないだろうと思った。自分でも食事にかなり気を遣うことの面倒さを背負う、自分で決めたことだ。夏が私の背中を押す。
二週間はすぐに過ぎた。正味四回のトレーニングで体重は五キロ痩せた。それだけではない、当然食事も簡単なモノや、手軽なモノは避けて母が用意してくれる温野菜やササミのサラダを弁当に入れてくれた。
「お母さん、これで痩せないと一ヶ月後に返金可能なんだって」
私が玄米ご飯を食べていると母は言った。
「ねえ、友佳梨は大金掛けて痩せようとしてるの、なんで?」
「う~ん。彼氏の一人くらい欲しいじゃない」
私は自分の下心を見透かされているような気持ちになって少し構えた。また冷やかされたらこの場で、ちゃぶ台返しをしそうだ。そんなものないけれど。
「そのお金はお母さんが半分出してあげるよ。頑張ってきれいになりな。応援してる。かわいい洋服とか買い物に行こう」
母は珍しくきれいな笑顔を私に向けた。私は思う、こんなきれいな笑顔に私もなれるだろうか。頬から顎に掛けてシャープな横顔になりたい。
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