第5話
七月の連休前のこの土曜日は青空で空気は澄んでいた。
私の新しい出発を後押しするかのごとく、電線にとまっているツバメもペアで仲よさそうに見えた。私もあんな風に並んでみたい。その思いが気持ちを後押しする。バッグには通帳と印鑑を入れて、スマホで調べたら、入会金が五万円に最短コースでも二ヶ月で298000円という料金だ。高額だとは予想していたが、これでテレビで見るような驚くべき変貌が手に入るのなら安いモノだという思いが頭の中でいっぱいになる。
健志くんと笑い合う自分の姿を想像してこれくらいのお金なら出せると思い込んでいた。整形手術のように痛い思いをするわけでなし。この金額で一回り痩せれば、私に後悔なんてない。二十歳代最後の夏に捧げる。
顔の造形はそんなに悪くはないと思う。母はまあまあの美形だからという根拠のない希望を抱き、ドアを開いた。
受付にはあの黒と金色のマークが燦然と輝き、見るからに健康そうな浅黒い顔の男性と、化粧のりの良い女性が声を掛けてくれた。
「いらっしゃいませ、体験ですか? 見学なさいますか?」
「はい、少し見学させていただきたいと思いまして」
私はひまわりのような笑顔の男女の勢いにおされてしまう。あなたたちはどうしてそんなにかっこいいスタイルをしているの? そしてあなたたちはただの同僚じゃなかったりします? まあ、そんなことはどうでもいい。促されるままにその女性と施設を見学して、トレーニングルームやロッカールームなど見せてもらうと、私は丸いテーブルに案内された。
「あの、今日入会したら明日から来られます?」
「ええ? 今日は見学では?」
「はあ、実は家で十分考えて。もう印鑑と通帳もって来ました」
私は自宅通いで、彼氏はいないし、女性友達も会社だけの付き合いでお金を落とす趣味もない。メイクやおしゃれにも無縁。貯金だけは結構あるのだ。そんなこと彼らが知るはずはない、だが私の本気は十分に伝わったはずだ。
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