第4話
あるいは夏、夏だからこそ、気持ちが燃え上がる時がある。それは暑さのせいでもあるが、のせられた私はある決心をした。テレビのCM に刺激されたからではない。私の本気を見せるときは今だと思う、これを逃せばもう二度とな痩せようだなんて思わない。
わたし・ライザップ始めました。
まだ、入会した訳じゃない、いまの時点では予定だ。
そうだ、パスタを食べたら最後、もう麺類などを食べることはしない。駅の近くにあるライザップに入会するのだと私は決意した。あの夢が私を突き動かす。かわいい浴衣、そう、色は白地に赤と黒のラインが入った彼岸花の柄がいい。グレーの半幅の帯なんて最高じゃないかと妄想を始める。あのときは自分は自転車だったので洋服だったと思う。
健志くんは痩せた私となら、一緒に夜店に行ってくれるかもしれない。それまでに間に合うのかは別問題ではあるけれども。自分の容姿に自信があるわけでもない、ただの出前先の女と出かける子なんているとは……。
ピンポン
玄関のベルが鳴る。健志くんだと思い私はスマホを持って走ろうとすると母がなぜだか先に玄関ドアを開けた。
「あら、いつもありがとう。ご苦労様」
母が支払いをしてパスタ二人前を受け取ると、私はそれを後ろから見ていた。黒いキャップの下の彼の顔を汗が被う。タオルを渡そうとしたけれど、母は無残にもドアを閉めた。
「さあ、さっさと食べて夕方には行くんでしょ。ライザップ」
「え? まだ行くって決めてないけど」
私はできる限り、このパスタを味わおうとした。痩せた母など目には入らない。彼女が何をどれだけ食べようが気にならない。どうせ半分は残すし、それを私が食べるからこんなにも太ってしまった。
この先、お腹が減ろうがもうパスタなど痩せるまでは食べることはない。だが、デリバリーは注文するんだと思う、彼に会うために。でも少しくらいきれいになるまで店の外、遠くから眺めているだけにする方がいいのかもしれない。
少しはましな私で、彼に会えたらいいと思う。
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