第3話

 「ラスパでまた何か頼む?」

 母の貴代子は細いメンソールのシガレットを灰皿に置いた。

 庄子くんが務めるパスタ専門店の名前を母は口にした。時計を見ると十一時前だった。ずいぶんと寝てしまった。こんなはずではなかったのに、もっと早く起きて犬の散歩の人が行き交路地を軽くランニングするはずだった。


 庄子くんは大学一年生で、名前を健志という。私は店の前を通りかかった時にバイクで配達に行こうとした彼を見かけて立ち話を交わした。たまたま、仕事の帰りに地下鉄の駅前のコンビニで買い物をした後のことだった。

「あ!」

「おおっ、ええと、配達のお兄さん。お店はここだったのね」

「ええと、ラオ元村403号のお姉さん……」

 胸には名札を付けている、三回ほど注文したことがあったが庄子と読める。

「また、注文してくださいね。夏のパスタ始まっていますよ」

「そうなの? また注文するわね。庄子さん」

「健志です、けんってみんな呼びます」

 私は柴犬の子犬みたいな笑顔の彼に一目惚れをしてしまったのかもしれない、いや、初めて見たときからかわいい男の子だなと思っていた。きっと学生さんだろうな。かわいい彼女がいて……。

 手を振って見送る私に健志くんはお辞儀をしてバイクを走らせた。


 私は今年三十歳になる。太った女があんなかわいい男の子のことを好きだなんて、滑稽だ。おまけにただの配達のバイトなどすぐに辞めてしまうに違いない。馬鹿馬鹿しいと思いながらもスマホで店のページを見てトマトとバジルのパスタを注文しようとしていた。

「お母さんは何にする?」

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