第6話

 白い車のテールランプを私はずっと見つめていた。

 いつまでもこの日が繰り返されると思っていたのは私だけだったのかもしれない。


 家から少し距離のあるところに下ろされるのはいつものことで、ほんの五分ほど歩くと私は自宅に帰り部屋に入って、すぐに白い封筒を開けた。

 中には一筆箋と三つ折りにされた紙が入っている。

「お誕生日おめでとう。二十歳の誕生日は一緒にいられないけれど、これがプレゼント。次の誕生日からはいつも一緒だから」


 白い紙は婚姻届だった。

 私は愕然とした、別れの予感は真反対の出来事で打ち消された。すぐにスマホを出すと何か言おうとしたが、庸二さんは運転中のはず。もうしばらくすれば、あと三十分ほどすれば大原の自宅に到着するはずだと私は座り込んだ。


 サプライズだったのだ。

 庸二さんらしい、照れ隠しの意地悪なプレゼントに私は腰が砕けた。ベッドの隅に座り込んで涙を止めることができずにいた。

 いつも一緒にいられる幸福感が心の中で染み渡る。愛してる、あなたを。思いは通じていたのねと私は溢れる思いを、先ほどまでの庸二さんの髪や洋服から漂うたばこの香りとともに思い出していた。照れ隠し? だったのね。気がつかなかった私は馬鹿だ。

 ひと夏の思い出は終わるはずだった。

 新しいページが私たち二人に訪れる、そんな幸せな日が始まると私は信じて疑わなかった。だが、庸二さんからの連絡は永遠になかった。

 たばこでしわがれた声、あの一言ずつ考えながら話す言葉を聞くことはできなかった。

 私は突然一人ぼっちになった。

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