第25話 真相
「……アーベルトさん」
「ん? どうした、なんかあったか?」
「本当にこの先にマキがいるんですよね?」
俺は少し息を切らしながら、険しい山道を進んでいる。そんな俺とは対象的に、アーベルトさんは済ました表情をしながらこちらを振り返った。
「ああそうだ。気を引き締めて行くぞ」
そう吐き捨てると、アーベルトさんは再び上の方を目指して歩き始めた。道中で拾った長い木の棒を杖代わりにして歩いている俺とは大違いだ。一切疲れている素振りを見せていない。どうもこの人の体力は化け物じみてる。
朝一番にギルドに集合した俺は、アーベルトさんに案内されるままこの山道まで連れて来られた。周りには背の高い木々が生い茂っており、あたりには俺たち以外誰も見当たらない。道もまともに整備されていないため、ほとんど人が通らない道なのだろう。
「あの……一つだけ質問してもいいですか?」
「どうした? まさかもう疲れちまったのか? 安心しろ、あと少しで着くぞ」
「いえ……そういうことではないです」
俺の問いかけに、目の前を歩いていたアーベルトさんの足が止まる。
「どうして今日マキを助けることについて、誰にも話していないんですか?」
「ああ? 昨日言ったろ、今から向かう先は敵の本拠地だ。相当危険な場所だから多くの人を巻き込むわけにはいかねぇ。馬鹿なこと言ってないで早く行くぞ?」
「待ってください! ……じゃあどうしてこの場にいるのが俺とアーベルトさんの二人だけなんですか?」
その言葉で、俺とアーベルトさんの間に少しの沈黙が訪れた。二人の間に山風が吹く音が響き渡る。
「部下はもう先に進ませてる。なんか変なことでもあるのか?」
目の前で両腕を組んだアーベルトさんは、キョトンとした表情を浮かべてこちらを見つめている。
「……本当に危険だというなら、やっぱりちゃんとギルドに報告するべきだ。本当は分かっているんでしょう……”安倍洋次郎”さん?」
そう言いながら、俺は胸ポケットに潜ませていた一枚の紙を取り出し、それを読み上げた。
「えっ……お前どうして俺の名前を……」
「
以前マキと洞窟内でした最後の会話が思い浮かぶ。マキがどこかへ居なくなる直前にした会話だ。
「確か今日の相手って不正を隠蔽しようとしている組織なんですよね? ……それにあの洞窟内を案内していたのはアーベルトさんだった。もしかして……」
「おいおい。なんだ? 会社が経営難だからって、俺が自分の会社で不正をしたとでも言いたいのか? それだけじゃ少し理論として横暴すぎだろ?」
確かに、これらの情報だけでアーベルトさんを悪者と判断するのは早計だ。あくまでマキから聞いた会社名と彼の会社名が部分的に一致しているに過ぎない。
「……でもそこまで分かってるなら十分だな」
「えっ……う"っ…!」
その瞬間、急に腹部に鈍い痛みが走った。意識が一瞬飛び、気づけば地面に横たわっていた。視界には遠くで腕を組み仁王立ちするアーベルトさんの姿が見えた。どうやら今の衝撃で吹き飛ばされてしまったらしい。
「本当は向こうで処理するつもりだったんだが……どうやらそんなにのんびりしている暇はなさそうだな」
「あ”っ……う”う”っ……なん……で」
腹部の鈍い痛みのせいで、声がうまく出せない。おそらく今の衝撃は奴の蹴りによるものだろう。
「なんで……か。お前みたいな子供にはわからないだろうな」
奴はそう言いながら、背中の大剣を抜き、こちらにゆっくり近づいてくる。このままでは不味いことは本能的に直感していた。すかさず俺もよろめきながら立ち上がり、剣を抜く。
「ほう……剣を持つのか」
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