第21話 仕切り直し
ジメジメとした少し嫌な湿気で目が覚めた。この世界にはエアコンというものがないため、家の外の天候がダイレクトに肌へ伝わってくる。そういうのも魔法とか言うのでどうにかしているのだろうか。
寝室の壁にかけられた時計を確認すると、まだサナが来るまで時間がある。いつもはそのままベッドに寝転んで時間を潰していたが、マキの家に運ばれてから初めて自分の力でベッドから降りてみた。
「おっとっ……」
まだ少しふらつくが、なんとか立ち上がることができた。今まではサナの助けを借りていたが、どうやらもう一人で歩くことはできそうだ。聞いた話では右足の骨が折れていたらしいが、これもサナの回復魔法のおかげなのだろう。
つい最近までは、マキが無理やり起こしに来るのだが、それも無くなってしまい、静かな朝を迎える。外では小鳥がチュンチュンと鳴いていた。
紅茶の入ったティーカップを片手に持って、暖炉の近くにある椅子に腰掛ける。この家に初めて来た時、マキと向かい合いうようにして座った椅子だ。
(さて、始めるか)
俺はまだ少し熱い紅茶をグッと飲み干し、目の前の”それ”に取り掛かった。
***
「お邪魔します~……ってケイトさん! お体は大丈夫なんですか!?」
昨日と同じように、ドアと軽く2回ノックする音が聞こえた後、サナがガチャリとドアを開けて家に入ってきた。手に持った黒いレースの傘を畳んだ彼女は、椅子に腰掛ける俺を見てあたふたしている。
「ああ。もう大丈夫だよ。この通り、十分回復してる」
「なら安心ですけど……それに手に持ってるのって……」
サナは俺の右手に持っている、簿記のテキストに目を向けた。
「ああこれか? ほら、これから大変になるだろうし、もっと勉強しないと駄目だろ?」
「えっ……ってことは」
「ああ、……俺もマキを助けにいくよ。それが……あいつの為に今できる唯一の償いだからな。それに、後悔するようなことはこれ以上したくないんだ」
そう、昨日一晩考えた結果、俺はマキを助けるため会計の勉強に専念することにしたのだ。
「……そうですね! マキーナさん、それを聞いたらきっと喜びますよ!」
やはりサナもマキのことが心配だったのだろう。マキを助けたい俺の言葉を聞いて、昨日とは真逆の表情を浮かべている。
「ああ。そうだサナ、ちょっと分からないところがあるんだけど……」
そう言って、ついさっきまで開いていたテキストのページをサナの目の前まで持っていこうとする。
「そうと決まれば、早速依頼を受けに行きましょう!!!!」
「えっ、いや、俺は普通に座学でも……」
「確かそのページに書いてあることが、ちょうど依頼あったと思います! ほら、早く行かないと誰かに取られますよ!」
「ちょっ……! 置いてくなって!」
急いで家を出ようとするサナを、俺は必死に追いかけていった。扉を開いて外に出ると、降っていた雨は止み、雲からは一筋の太陽光が差し込んでいるのが見えた。
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