第2話 転生?

「おいっ! なにそんなところで寝てんだ坊主! 起きろ!」


 さっきのハゲたおっさんとは違う、非常に乱暴な怒鳴り声で再び眠りから目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、雲ひとつない青空を背景に、屈強な大男のシルエットが目に入る。


 あれ? なんで俺はまた寝てたんだ? それに酷く頭がガンガンする。


 目をこすりながら上半身を上げると、そこにはやけにガタイのいい、肌を少し黒くした大男が立っていた。背中に巨大な剣を背負っており、赤いマントのようなものを身にまとっている。なんだこの剣士のコスプレをしたおっさんは? しかも頭には毛一本も生えていない、またハゲだ。


「えっと……なんですか?」


「なんですかじゃねぇ。こんなところで寝てたら危ねぇだろバカ!」


 剣士のコスプレをしたおっさんが、革靴のつま先で強く尻を突っついてきた。痛てぇ。たしかに外で寝転んでた俺も悪いが、そこまで強く蹴る必要もないだろ。


「……あれ?」


 起き上がってすぐ異変に気づいた。さっきまで大通りを歩いていたにも関わらず、寝ていた場所はゴルフ場のような、だだっ広い芝生の上だったからだ。よく見ると、おっさんと同じ服装をした人たちが十数人くらい辺りに散らばっている。


「ったく。坊主、お前こんなところで何してたんだ?」


 状況が掴めずキョトンとする俺に、おっさんは呆れた表情を見せていた。


「いや俺は……えっと……たしか簿記検定を受けてて……」


 今までの自分の行動を必死に思い出そうとする。たしか簿記検定を受けたあと、コンビニで買った焼きそばパンを食べ歩いていた気がする。でもそっからの記憶が曖昧だ。


「簿記検定って……何だ、お前もウチのモンだったのか。じゃあほら、これ使いな」


 うーんと頭を抱えている間に、おっさんは納得した表情をしながら、目の前に背中の大剣を置いた。


「……なんすかこれ」


「俺の剣だよ。普通は武器も生徒が用意するもんなんだが……新入りだから分かんなかったのか。まあ俺は予備の剣持ってっから。とりあえず、それで頑張れよ!」


 おっさんはグッドサインをしながら、背を向けてどこかへ歩いていってしまった。とりあえず、おっさんが置いていった剣を持ち上げてみる。


 (はっ!? なんだこれ……めちゃめちゃ重いぞ!?)


 おっさんの渡してきた剣の重さに思わず驚いてしまった。さっきのおっさん、ただのコスプレイヤーじゃなかったのか?


「おい、来たぞ! お前ら構えろ!」


 唖然としていると、遠くから何やら高らかに叫ぶおっさんの声が聞こえてきた。え、なにが来るんだ。


 おっさんの歩いていった方へ視線を向けると、遠くから大勢の人影がこちらに向かって来るのがわかった。おっさん達はそれに立ち向かうため剣を抜いて待ち構えている。


 一体何なんだ、何が始まろうとしている。とりあえず独りでいるのも心細いので、おっさんたちの方へ近づいてみる。


「どりゃああああっ!」


 おっさん達は何者かと戦っているようだった。よく目を凝らして、その相手を見てみる。


「……なっ!?」


 俺は自分の目を疑った。おっさん達が戦っているのは、小人のようで緑色の肌をした、悪魔のような化け物――ゴブリンだったからだ。「ゴブリンのようなもの」じゃない。あの某有名RPGゲームとかカードゲームとかでよく見る、緑色のアレだ。


 現実離れした状況にたじろいでいると、おっさんが率いる部隊からはみ出た一匹のゴブリンが、こちらに向かって走ってきているのが見えた。


「おい坊主! そっち行ったぞ!」


「げっ……」


 ゴブリンが手に持った棍棒を振り上げながら、どんどん近づいてきている。


「くっ……くそっ! 俺もやるしかねえっ!」


 俺はおっさんから受け取った大剣を手に取り、ゴブリンの攻撃をすかさず大剣で防いだ。


「うわぁっ!?」


 しかしゴブリンの攻撃は予想以上に強力で、大剣ごと体を数メートル後方へ吹き飛ばした。なんだ? ゴブリンって序盤のザコ敵じゃなかったのか?攻撃は防げたものの、すかさずゴブリンが追撃を仕掛けてこようとしている。俺は立ち上がろうにも、攻撃を防いだ腕が痺れて身体を持ち上げることが出来なかった。


 (あっ……これ死んだわ)


 俺の直感が死を予言した。これもう駄目だわ。初見で異世界のモンスターに勝てるわけ無いだろ。ってか今思い出したけど、俺トラックに轢かれて死んでたんだ。あれか、これがいわゆる転生ってやつか。まあでもトラックで死ぬよりゴブリンに殺される方がなんかまだ面白みがある。どうせ一回死んだんだから、二回死ぬのも同じだろう。


 俺は死を受け入れるかのように、目をゆっくりと瞑った。


「トチィィィィィィィィィィィ!?!?」


 すると目の前で、今まで聞いたことのないような恐ろしい断末魔が聞こえた。目視していなかったが、なんとなくさっきのゴブリンのものであることは予測出来た。いつまで経っても自分の身に何も起こらないので、恐る恐る目を開けてみる。


「なにやってんのケイト! ほら、早く立って!」

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