第3話

「負けました」

 二局目も、負けた。一年生二人も負け。予選敗退も決まった。ただここまでは、想定内だ。

 本当は、割り切っているわけじゃない。同じ高校生なのに、こんなに力が違うなんて。僕だって、頑張ってきた。姉さんは、才能があるのに。

 いろいろな思いを押し込めて、盤に向かう。勝ちたい。とにかく、最後に一つ勝ちたい。

 最終戦。聞いたことのない学校名だった。ここまで、二戦とも一勝二敗で敗北。最下位決定戦だ。

 ただ、違和感に気付く。一勝二敗? あの強豪チームに、一つずつ勝ってる?

「知ってる」

 いつの間にか、文彬がそばに来ていた。

「え」

「去年、中学の代表だった中西だ。相手の大将」

「えっ」

「推薦で行かなかったんだな。将棋部も作ったのかな」

 ひどい話だと思った。よりによって最後の、高校最後の対局が、突然現れた超強豪とになるなんて。無名校だから何とかなるかもと思っていた自分が恥ずかしい。

「知らなかった」

「悔いがないようにな」

 僕の肩を叩いて、自分の席に戻って行く文彬。彼には、まだ優勝を目指すという大きな目標がある。そんな中、僕のところまで来てくれたのだ。

 最後まで、楽な戦いはない。むしろ最後にそんな強い人と当たれる僕は、幸せ者なのかもしれない。

 目の前に座ったのは、もの静かで、おとなしそうな奴だった。首を傾げながら、何度も瞬きをしていた。

 僕は、大きく息を吐いた。体と心の全てを、最後の勝負に捧げた。


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