第2話

「本当にいいのか」

 メンバー表を書く僕に、文彬ふみあきが聞いてきた。同級生で爽やかイケメン、そして我が校のエースだ。

「いいよ。ちゃんと決めたことだから」

「けど、せめてBチームに」

「今年はBだって上位入賞のチャンスがある。これでいいんだ」

「わかった」

 文彬は、笑顔で親指を立てた。やっぱり爽やかイケメンだ。

 例年、Aチームは三年生主体で構成する。とはいえそれは、三年生が主力だからだ。僕は三年生だけど、弱い。だから、実力通りにDチームなのだ。

 三年連続、Dチーム。もはや、愛着すらわいてきた。そして今年こそ、このチームで勝利を挙げたい。

「では、メンバー表を提出してください」

 部長として、全チーム分のメンバー表を提出する。そして、組合せの抽選が始まった。三か四チームが一つの組になって、総当たりのリーグ戦を行う。そこでの上位二チームが、決勝トーナメントに進むことができる。

 涼徳Aは、そこそこ当たりのいいリーグに入った。順当にいけば、予選通過できるだろう。そして、問題は僕たちだ。

「先輩、先輩!」

「あー」

 チームメイトとなる一年生二人が、声を上げた。初めての大会とはいえ、強豪校の名前は教えられている。

「おいおい、参ったなあ」

 文彬が、僕の肩をつかみながら苦笑している。

「おもしろいじゃない」

 優勝候補が、同リーグに二校入っていた。一つはBチームだけど、それでもかなり強い。

 冷静に考えて、勝てない。

 ただ、元々そんなことはわかっている。このチームの役割は一年生に経験を積ませること、そして他のチームを少しでも苦しめることだ。

「最後に、強い人とやれるのはうれしいよ」

「おっ、前向き」

 僕は立ち上がり、トイレに向かった。実のところ、緊張でいろいろと口から飛び出してしまいそうだった。


 三年目、変わったところが一点ある。大将になったのだ。

 三人制の団体戦では、大将・副将・三将を決めて、予選内ではその位置を動かすことができない。初心者の二人よりは強いし、一年生に大将をさせるわけにもいかないので、自然と僕の位置は決まった。

 Dチームとはいえ、やはり大将席というのは特別だ。振り駒をして対局の先後を決めたり、勝敗を本部席に報告しに行く役割がある。

 ゲスト棋士のあいさつが終わり、ついに最初の対局が始まった。

 他の二人には、「とにかく反則に気を付けろ」と言ってある。

 息を、ゆっくりと吸い込んだ。相手は優勝候補チームの大将。百回やったって、きっと勝てないだろう。それでも、全力でぶつかる。これまでの努力を、形にしたい。

 二年以上将棋部にいたので、序盤はそれなりに形になるようになった。それだけでも成長だ、なんてことは言えない。みんな、僕よりずっと強くなった。姉さんは、タイトルを獲った。僕だけまだ、何もない。

「負けました」

 とはいえ、力の差は歴然で、中盤以降はどんどん悪くなっていき、そして投了をした。対局前から予想できたことで、悔しさはなかった。自分なりに力は出せた。

 でもちょっと、寂しい。

 他の二人も負け、全敗スタート。ただ僕には、別の役割もある。残った他のチームの対局を見届ける。そして、三チームとも勝ち。

「うちらも、次は勝とう」

「はいっ」

 全体としては幸先のいい出だしだ。なんとか、一年生の二人にも勝利を経験させてやりたい。

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