第8話 長雨に沈む首都ブリスト
そういうわけで。
わたしはライオネルに連れられて、ブリスタニア王国の首都ブリストへとやって来た。
ブリスタニア国王(ライオネルのお父さんね)にまずはあいさつしないとけないからね。
まぁそれはそうだよね。
龍に関することは国の存亡にかかわる大事な大事な問題だから。
偉い人に会うのは苦手だけど、なかなかそんなことも言ってはいられない。
それにしても――、
「イヤな感じの雨ですね……それに皆さん表情が沈んでる気がします……」
ブリスタニア王国に入ってからここまでずっと、わたしたちは雨に降られていた。
しかも――ぶるぶる。
「ううっ、寒いです……」
そろそろ夏本番も近いのっていうのに、すごく肌寒いんだ。
「よければ、どうぞ」
ライオネルが上着の軍服っぽい貴族服を、そっとわたしの肩にかけてくれた。
ううっ、庶民のわたしにもこんなに優しいなんてライオネルはほんと紳士だなぁ……。
「あ、ありがとうございまちゅ……」
そして優しくされてドキドキ恥ずかしくってドモってしまった自分が、心底情けないよ……。
しかも上着からはライオネルの匂いがしてきたの。
はぅっ……イケメンっていい匂いがするんだね……。
「すでにブリスタニアの全土で
ブリスタニア王国の首都だけあって、ここブリストはしっかりと整備された大きな街だった。
だけどその雰囲気は最悪に近かった。
雨の続く街にはさっぱり活気がなくてまるでゴーストタウンみたい。
ぶ厚い雲に住民は心まで覆われちゃったみたいだった。
「それにしても一か月も雨が続くなんて……」
完全な異常気象だ。
そしてこれは間違いなく龍――水龍さまによる災害だった。
水龍さまがなんで怒っちゃったのかは知らないけれど、これじゃ農作物は壊滅的ダメージを受けちゃうよ。
そうなると当然、今年は凶作になってしまう。
そしてそのあとに待ってるのは
わたしはそのことをよくよく知っていた。
孤児院にいた時わたしは毎日お腹をすかしてイライラしてたから。
もちろんわたしだけじゃない。
孤児院の子たちはみんな――ううんシスターたちですら、貧しい生活でお腹を空かせていた。
あの時のわたしは世の中の全てが憎かった。
シスターに頼まれて街におつかいに出る時、たまに肥え太ったブタのような貴族を見かけるたびに、グーグーなるお腹をさすりながら死ねばいいのにって思ってた。
お腹を空かせた子どもたちの中には、貧しさに耐えられなくて脱走してハングレ集団に入って、盗みなんかの犯罪行為に手を染める子たちもいた。
犯罪はやっちゃいけない。
そんなのみんな分かってる。
でも貧しさがそうさせてしまうんだ。
そんな子たちの気持ちがわたしにもよく分かってたんだ……。
わたしがそうならなかったのはにどんくさかったのと、あとは悪いことをする勇気がなかっただけだから。
お腹が減って何もかもを憎く思っても、それでも他人に迷惑をかける勇気すらわたしにはなかったのだ。
わたしってばヘタレだから……。
だからわたしは
悪人でない普通の人であっても生きるためには犯罪すらしてしまうということを、身に染みて知ってたんだ。
「このままじゃいけないって思います」
わたしは雨に苦しむ人々を見て、なんとかしなくちゃって気持ちでいっぱいになっていた。
「どうやらクレアにも現状は理解してもらえたみたいだね。そういうわけだから、クレアにはどうにかして水龍さまのご機嫌をとってもらいたいんだ」
ライオネルがキリッとした真剣な顔をして言った。
「わかりました。そのためにもまずは王様に
偉い人に会うのはすごく苦手だけど、この惨状を前にそんなことは言ってられない。
困ってる人がこんなにいるんだもん。
わたしがやらなくちゃ!
わたしは、えい! って覚悟を決めたんだ!
「ふふっ、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫だよ。父は優しい人だから」
ライオネルもそう言ってくれてるしね。
まぁ、王子さまで、イケメンで、イケボで、サラサラの金髪で、透き通るような蒼い瞳で、高身長で、すらっとしてて、立ち居ふるまいが優雅で、言葉遣いもジェントルメンで、すごく優しくて、笑顔がとってもチャーミングな、素敵すぎるライオネルのお父さんなんだもん。
きっとすごくナイスなミドルに違いないよ、うん!
そう考えると、なんだかちょっと会うのが楽しみになってきたかも?
……むふふっ。
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