第7話 聖女、再就職する。

「なにから説明したものかな……そうだね。恥ずかしいことに我がブリスタニア王国は『水龍の巫女』が途絶えて久しいんだ」


「あ、えっとそういえば、そんな話を聞いたことがあるような、ないような……?」


 神龍さまを祭るシェンロン王国と同じく、ブリスタニア王国では水龍さまを祭っている。


 そしてブリスタニア王国の『水龍の巫女』はここ数年、空席が続いてたとかなんとかそんな話を聞いた気がする。


「ボクは父であるブリスタニア王から『水龍の巫女』を探し出す国家プロジェクトの責任者を任されていてね。だけどなかなか見つけることがかなわず、水龍さまの機嫌はどんどんと悪くなるばかりで……」


 ライオネルは小さくため息をついて肩を落とした。


「龍の言葉を聞くことができる巫女は、100万人に1人いるかどうかのレアスキルですもんね……」


 ライオネルの気持ちはすごく分かる。

 海の中に投げこんだ小石を拾ってこいと言われたようなものだもん。


「最近は一か月も長雨が続いていてね。このままだと農作物に大きな被害がでてしまう。それで当座をしのぐために神龍国家シェンロンの『神龍の巫女』の力を借してもらうことはできないかと、ボクみずから交渉に行く途中だったんだけど――」


 そこでライオネルは言葉を切るとわたしを一度じっと見た。

 そして言った。


「もしクレアが追放されて行く当てがないというのなら、我がブリスタニア王国に来てはもらえないかな?」


「それはつまり、わたしに『水龍の巫女』になって欲しいと言うことでしょうか?」


「うん、ぜひ龍の声を聞くことができるクレアの力をブリスタニアに貸して欲しいんだ。もし来てもらえるのなら――」


「行きます! 喜んで行きます!」


「――もちろん『水龍の巫女』にふさわしい好待遇を保証しよう。賓客ひんきゃくとして丁重に……って、え!? もう決めたのかい!?」


 即答したわたしを見てライオネルがビックリした顔をした。

 でも、わたしのほうが当然の反応だよね?


「だって住所不定・無職になったわたしを、前職と同じように巫女として雇ってくれるってことですよね!?」


「まぁそういうことなんだけど、でも条件も聞かずに――」


「好待遇を保証してくれるというライオネルの言葉だけで充分です! ぜひブリスタニア王国で働かせてください!」


 どこで生きるにしてもお金がかかる。


 つまり働かないといけない。

 それが庶民だ。


 だったらこんなビッグチャンスを逃す手はないよねっ!


「じゃあまずはブリスタニアの王宮に案内するよ。父であるブリスタニア国王に事の次第を説明しないといけないからね。顔見せ程度で大丈夫だから、クレアも一緒に謁見えっけんしてほしい」


「ええっとブリスタニア王に謁見えっけんするんですか……?」


 それは不安だよ……すごく不安だよ。


 わたしってばシェンロンの王宮には居たけど、ずっと巫女の仕事ばっかりしてたから上流階級のマナーとかもちょっと、どころかかなり怪しいし。


 王さまと謁見えっけんなんかして粗相をしないかなぁ……。


「あはは、父は悪い人じゃないからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 ライオネルがまたさわやかに笑って言った。


 はうー、ライオネルを見てるとなんだか問題なさそうな気がしてきたかも?



 こうして。


 わたしクレアは嫌がらせで『神龍の巫女』をリストラされたんだけど。


 ブリスタニア王国第3皇子ライオネル・クリムゾンレッド・ブリタニアと偶然出会ったおかげで、すぐに『水龍の巫女』として隣国ブリスタニアで再就職することになったんだ。


「わたしの新しい人生が始まる――!」

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