第3話 バーバラ SIDE

~バーバラ SIDE~


「あはははははっ! やったわ! ついにあのいけ好かない庶民を追い出してやったわ!」


 肩を下ろしてトボトボ王宮を出ていくクレアを、屋上庭園のテラスから見下ろしながら、バーバラはにまにまと底意地の悪い笑みを浮かべた。


「まったく、庶民のブンザイで『神龍の巫女』になるなんて100年早いのよ」


 龍の声を聞くことができる巫女の力は100万人に1人しかいないレアスキルだ。


 そして神龍はドラゴンの中でも最高位とされており、『神龍の巫女』はシェンロン国内だけでなく他国からも敬意を表される高い地位、選ばれた存在なのだった。


 そんな高貴な地位に、こともあろうに孤児院出身の貧乏庶民が選ばれたのだ。


「ありえないでしょ! 常識的に考えて!」


 『神龍の巫女』としてチヤホヤされるあの庶民を見て、私はすぐにそれを奪ってやろうと考えた。


 まずは私も『神龍の巫女』になってやった。

 『神龍の巫女』になること自体は、4大貴族である父ブラスター公爵の圧倒的権力を使えばいとも簡単だった。


 そして私は、あいつの「結果」を全てを私のものにしてやったのだ。


 最初の頃はあいつも、自分が全部やっているんだって必死に説明してたけど、私がそれを全否定してやったので、あいつの言うことなんて誰も聞き入れはしなかった。


 すごくすごくいい気味だったわ。


 でもあの庶民はめげなかった。


 ま、よく考えたらそれも当然だよね。


 だって『神龍の巫女』には、庶民では考えられないほどの高い給金が出るんだもん。


 私たちのような優雅で尊い貴族とは違って、泥くさい貧乏人たちはすぐに金になびき金を欲しがる。


 まったくこれだから貧乏庶民はイヤなのだ。


 金、カネ、かね。


 本当に汚らわしい金の亡者どもだ。


 だから今回、国の財政難をちょうどいい理由にして金に汚い貧乏庶民を上手いこと追い出してやったというわけなのだった。


「ひひっ、ざまぁみろ」


 我ながら実にエレガントに事を運んだと思うね。

 ま、あの庶民はアホだから論破するなんて簡単だっただけど。


 だいたい偉そうに『神龍の巫女』とか言ってるけど、いったい何の仕事してるのよ?


 もう100年以上も『神龍災害』は起こってないのよ?


 起こらないことを怖がる必要なんてないじゃない?


「ま、万が一なにかあったら、あいつがやってたみたいに適当に『奉納の舞』を踊ってみせればいいんでしょう?」


 それくらい龍の声が聞けなくたってできるんだから。


 なにが100万人に1人の龍の声を聞けるレアスキルよ。


「そんなモノをいまだにありがたがってる頭の固い老害ジジイどもには、ほんと辟易へきえきするわ……」


 ま、今日のところはあの庶民を追い出してせいせいしたってことで、良しとしましょうか。


「ねぇクレア? 私はね、自分より目立つ女が大嫌いなの」


 上級貴族や王族ならまだしも、孤児院出身の庶民の分際で私より目立つとか絶対に許せないから。


「聖女とか呼ばれて調子に乗ったバツよ。どこぞでみじめに野垂れ死ぬがいいわ! あはははははははっ――!」


 私は最っ高にステキな気分でテラスを後にした。


 もちろん『祭壇さいだんの間』に行ったりなんかはしない。


「だって今日は、お気に入りのネイルサロンに行かなくちゃいけないんだもの♪」


 今日は丸一日貸し切りにしてあるんだから、早く行かないともったいないもんね。


「まっ、どうせ今日も何も起こらないでしょ」

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