第2話 聖女、国外追放される。

「えっと、どうしてでしょうか? そんなこと急に言われてもわたし困るんですけど……」


 わたしがすごく動揺しながら答えると、


「理由は簡単、人減らしよ。あなたはリストラされたの」

 バーバラが感じの悪そうな笑みを浮かべていった。


「リストラですか? だってそんな話、今まで全然なかったのに……」

 わたしが質問すると今度は上級貴族の男が答えた。


「やれやれまったく。庶民というのは世の中のことを何も知らないのだね。この国は最近、財政難におちいっていてね」


「は、はい。それは存じております」

 この国、神龍国家シェンロンはここ数年、財政危機が叫ばれていた。


 でもそれは原因がはっきりしている。

 貴族たちの度が過ぎたぜいたくが原因だ。


 貴族たちは庶民から集めたお金を、湯水のように使っていた。


 高級な衣服を買い集めたり美術品や金銀財宝を収集したり。


 あまり必要のない建物を、国のお金を使ってわざと高い金額で建てさせたりもしてる。

 自分の知り合いの業者にその仕事を受注させてお金を流して、そこからキックバックを懐に入れるのだ。


 そうして散々やりたい放題して国にお金がなくなったら、貴族たちは平気な顔をして今度は税金をどんどん高くしていったんだ。


 今年の秋、収穫の時期にはまた税金が上がるって話だった。


 でもどれだけ税金が高くなっても高くした分だけ貴族たちが好き放題使ってしまうから、なんの意味もない。


 だから今の神龍国家シェンロンにはお金がほとんどなかった。


「そこで経費を削減しようという話になってね」


「それで、どうしてわたしがリストラされるんでしょうか?」


「だって『神龍の巫女』が2人もいる必要なんてないだろう?」

 男が言うと、


「後のことはわたしにまかせなさいな、庶民」

 バーバラが意地悪そうに言葉を続ける。


「で、ですが。神龍さまのお怒りを鎮めなければ『神龍災害』がおこってしまいます」


「それならば『神龍の巫女』バーバラがいれば問題ない。元からサポート役の庶民などに高い給金を払っていたのが間違いだったのだ」


「そのことなのですが、実は本当はわたしがほとんどの仕事をしてまして――」

 わたしが真実を言いかけた時だった。


「クレア、庶民の分際でこのわたしを侮辱するつもりですか? このわたし、バーバラ・ブラスターを!」


「め、滅相もござません! ですが――」


「くどいぞ庶民! 上級貴族のボクとその婚約者でもあるバーバラに楯突こうというのか! 貴族侮辱罪で死刑にするぞ!」


「も、申しわけございません! どうかお許しください!」


 わたしは慌てて土下座をしながら謝った。

 貴族は侮辱した庶民を好きに死刑にできるのだ。


「まったくこれだから庶民は……いいだろう、死刑だけは勘弁してやる。その代わりに君を国外追放とする。2度とシェンロンの地を踏むことは許さん」


「ええっ!? そんな!?」


「ふん、死なないだけマシだと思うのだな」

 貴族の男が笑いながらそう言い、


「前からあなたのことが目障りでしたの」

 バーバラも小馬鹿にしたように言ってきた。


「国を出るか、それとも死刑になるか。好きに選ぶといい」


 もはや、わたしにできることはなかった。


「わかりました、国を出ます……ですがどうか神龍さまを怒らせることだけはしないでください。シェンロンが滅んでしまいます」


 わたしが小さな声でそう言うと、


「『神龍災害』はここ100年、1度たりとも起こっておりませんわ。国の心配をするより、あなたの今後を心配した方がよいのではなくて? 国を追放されたような人間は他国もなかなか受け入れてはくれないでしょうし」


 バーバラが馬鹿にしたように笑って言ってくる。


 この言い方。

 バーバラは最初からわたしを、リストラした上で国外追放するつもりだったんだ。

 わたしが目障りで邪魔だったからから。


 翌日。


 寝る間も惜しんで旅立ちの準備をどうにか間に合わせたわたしは、長年住んできた王宮のお部屋を追い出されるように放り出された――。

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