001 ハゲの残像だ! 秘技、ヘドバンお辞儀!

 僕が異変に気が付いたのは、大学生二回生の頃である。


 カーペットを掃除するローラ式のあれ(※正式名称はしらない)で万年床をコロコロした時に、何だかいつもより抜け毛が多い気がした。そして洗髪時も、朝起きた時も同様にやや抜け毛が増えている気がしたのだ。

 またこの頃から、ふと公衆トイレの鏡で自分の顔を見た時に分け目の地肌が以前よりも目立って見えたのだ。


 極め付けが――三回生になった時の友達のこの一言。


「――あれ? お前禿げてね?」


 オブラートに包むことを知らない友人の一言に、僕は脳天へ雷が落ちたかのような衝撃を受けた。


「……はぁ? んなわけねーじゃん。寝癖で分け目がくっきりして、汗かいてべたついてるし、あと照明と湿度の関係とか、その他もろもろの奇跡的な条件下が揃ったからでだな……」


 云々と、聞くに堪えない程の長く見苦しい言い訳をした。


「あぁ……、うん。そっか……。なんかごめん……、俺の見間違いだったわ……」


 とても気まずそうに謝罪の言葉を口にした友人の顔を、僕はとても正視することができなかった。


 そうやってなんとか学生時代は強がってみせていたものの、卒業頃にはもう分け目をどういじっても地肌が見えてしまうほど薄毛は侵攻していた。



 さて問題は社会人一年目である。


 大学時代の友人達の多くは、アハ体験のように徐々に時間をかけて進行していく僕の薄毛に気付いた者はほぼいなかった。(彼らが僕に気を遣って何も言わなかった可能性を除けばだが……)


 しかし、初対面である人には僕の後頭部を見た瞬間に、「あっ、こいつ禿げてる」と認知されてしまう。


 大学卒業後、僕は中堅IT企業に就職したのだが、仕事を覚えることよりも、禿げを隠そうとすることに日々努めた。


 職場での初日挨拶も、ロックバンドのヘッドバンギングのように目にもとまらぬ速さで礼をした。そこにいた社員全員が、僕の後頭部は残像しか捉えられなかったはずだ。愛想の悪い新人だと思われかもしれないが、初日から禿げ頭を晒すよりはましだった。

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