以心伝心 その陸

 新島が泣き止んだ頃、三島と新田も部室に到着した。

「よし」新島は元気を取り戻し、笑顔で立ち上がった。「テレパシーについて、いろいろな実験をしてみた。だが、やっぱりテレパシーの有無を確かめるにはこんな実験では甘いと思う。だから、獅子倉にある特定の数字を教えて、その数字を新田が言えるかも検証しようか」

 新田はコクコクとうなずいて、三島と一緒に獅子倉を呼びに行った。

「新島」

「何だ?」

「休むことも大切だぞ」

「わかってる」

「それと......まだ新田が犯人だと考えているのか?」

「当然だ。テレパシーなど存在するわけがないってのが俺の持論なもんでね」

「でも、だからって新田には動機はないだろ?」

「例えば、ただおどかしたいからやってるとか、動機はいくらでもあるぞ」

「それもそうなんだが、新田に限ってそんなことはない」

「なんで言い切れるんだ?」

「文芸部の部員だからだ」

「はっ! 面白いことを言うじゃねえか!」

「部員を疑うのはゆるさねぇぞ」

 新島は高田が避けることのできないようなスピードで、右手で拳を握って殴りかかった。「新田は怪しい。そう言って何が悪いんだ? 部員? テメェは何を言ってやがる!」

「貴様、やりやがったな!」

 二人は殴り合いを始めた。いつもは気性の荒くない新島だが、実父の一件がすっかり応えているようだった。普段の新島の面影を感じさせないほど怒りっぽくなっている。二重人格のそれに近かった。

「痛い! 俺が悪かったから、新島! やめろ! 痛い!」

 高田の声で我に返った新島は、驚愕した。「あ! すまん。気が動転していた」

「大丈夫だ。新島は父さんのこととかいろいろあるから仕方ないよ」

「すまん。これからは気をつける」

 二人が仲直りをすると、タイミング良く獅子倉を連れた三島と新田が戻ってきた。

「実験を始めよう。高田は獅子倉とまず空き部屋に行け。三島は新田とまた部室。俺は最初は客観役ということだ。

 高田は獅子倉にちゃんと数字を示せ。いいな?」

「わぁった、わぁった」

 高田はだるそうに返事をして、獅子倉と空き部屋へと入っていった。数分で戻ってくると、新田は『1084』と答えた。

「合っているのか、高田?」

「完璧だ。当たっている......」

 新島は深く思案した。「次は俺が数字を伝える。高田と交代だ」

 高田は部室の扉にもたれかかって、腕を組んだ。新島は獅子倉と空き部屋に入り、獅子倉に指で『54』を示した。

 部室に戻り、新田も『54』を示した。負けじと、新島はまた空き部屋に行くと獅子倉に『97』と言った。また扉を開けて部室に入る。

「新田。俺が伝えた数字は?」

「97、ですか?」

「......正解だ」

 次には高田が獅子倉に伝えた『58237』を新田が当てて、新島の伝えた『569』を当てる。

 実験を繰り返し行った結果、どう考えても数字を当てることは出来ないと新島は判断した。今回の実験を通し、新島は少しばかりテレパシーを信じることにした。

 下には、くわしい実験の内容を示した表のようなものを用意した。左の数字が新島と高田の示した数字で、右の数字が新田の答えた数字である。


高田 1084ーーーー1084

新島 54ーーーーー54

新島 97ーーーーー97

高田 58237ーーー58237

新島 569ーーーー569

高田 80ーーーーー80

新島 489ーーーー489


 正答率は100%だ。次に、数字を言葉に置き換えても実験をしてみようということになったのだが、部活動終了時間の六時を迎えたため断念した。それに、今日も烏合の衆の会議があるのも理由の一つだった。

「新島。明日は部長の学校でテストがあると聞いたんだが?」

「ああ、昨日メールが来た。テストは確実に赤点になるだろうから諦めるらしいぞ」

「部長らしいな」

 新島のマンションに向かい、206号室に到着。土方の持ってきた缶コーヒーを全員で一斉に飲み、会議を開始した。当然、獅子倉も参加している。

「実は」新島は缶コーヒーの空き缶をキッチンのシンクに投げ込んだ。「今日実験をした。高田と俺が交代交代に獅子倉に数字を示して、新田は示された数字を獅子倉とテレパシーで会話して答えるって奴だ」

「結果はどうだったんだ?」

「正答率10割り! はずれ無しだった」

「面白いことをしたな」

 新島は高田から借りた手帳に上記のような表をボールペンで書き込んで、土方に見せた。

「なるほど、なるほど。テレパシーは実際にあるということなのか?」

「さあな。今回の件で少しはテレパシーを信じようと思ったが、完全に信用したわけではない」

 土方は納得して、新島に手帳を渡した。新島はその手帳を高田に渡すと、カレンダーを見た。「次の土曜日と日曜日、親戚の脳科学者が協力してくれることになった。うまくいけばテレパシーの正体がわかるかもしれない」

 次の土曜日と日曜日だな、と高田はつぶやきながら手帳に記していった。彼は何でもかんでも手帳に書く癖がついているようだ。胸ポケットから小型のボールペンを取り出している。手帳専用のボールペンだと思われる。

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