以心伝心 その漆
次の土曜日。文芸部全員と獅子倉は新島の家に集まった。その日、新島の家には親戚の脳科学者の新島泰三(にいじまたいぞう)が現れた。新島の実の父親の弟である。
「やあ、真君! 久方ぶりだね」
「どうも、泰三さん」
「それより、まず聞きたいことがあるんだけど......」
「何だい?」
「父さん、生きてるの?」
すると、泰三は神妙な顔になった。「いつか聞かれるとは思っていた。だが、いざ聞かれると緊張するもんだな」
「じゃあ、父さんは──」
「俺の口からは言えないさ。兄貴には口止めされているからな」
新島は額から汗を垂らした。
「さて。じゃあ、新田さんと獅子倉さんと質問をして異常がないか調べればいいんだね?」
「まあ、そういうことです」
泰三はまず、新田を見た。「君が新田さんだね?」
「はい、そうです......」
「テレパシーは急に発現したのかな? 段々と兆候が出てきて、テレパシーが現れたとかじゃないの?」
「急にテレパシーが発現しました」
「ふむ......」
泰三は自分の顎を撫でた。腕を組んで考えだすと、紙を取り出してシャープペンシルで何かを書いては質問を繰り返した。
やがて結論を出したのか、泰三は新島と奥の部屋で声を潜めて話し合っていた。数十分議論を白熱させて、その後で泰三はテストの結果を話した。
「新田さんと獅子倉さんの思考が似た構造になっていることが、今回のテレパシー騒動を生んだのかもしれない。というのも、くわしいことは脳波を調べてみなければわからないが、一時的に脳内が何らかの影響によって繫がった可能性がある。
推測に過ぎない結論なんだが、テレパシーがある可能性は大いにある」
新田と獅子倉はパチパチとまぶたを閉じたり開いたりを繰り返していた。これにより、テレパシーの信頼度はますます上がった。新島もこれを機にテレパシーを信じようと決意を固めた。
「泰三さん。その結果は本当に確かなのですか?」
「うーん......はっきりとは言えないなぁ。信じるか信じないかは真君次第だが、かなり信憑性が高いはずだと自負するよ」
新島はじっくりと考えて、円を描くように歩き回った。「この結果を尊重することにしよう」
泰三はテレパシーのテスト結果の資料を新島に渡し、家を出ていった。
「おい、新島」高田は新島に歩み寄った。「結局どうするんだ?」
「俺はテレパシーを信じることにする......」
「なら、テレパシーの件をどうやって解決する?」
「文芸部では解決不可能だ。よって、文芸部はこの件から降りる」
「わかった。仕方がないことだから、諦めよう......」
文芸部は解決出来ないテレパシーという難問の解明を諦め、撤収することに決めた。しかし、これによって歯車がまた、動き始めることになった。
翌週、月曜日。新島は三組の教室に入った。右手には指輪がはめられていた。高田は気になって、新島に尋ねた。
「その指輪は何だ?」
「これか? これは、父さんだ」
「は?」
「人工ダイヤモンド。原料は遺骨。つまり、これは父さんの一部だと言われて譲り受けた遺産の一つなんだ」
「じゃあ、真琴の言っていた実父が新島を捨てたってのは嘘なんじゃないのか?」
「わからない。この人工ダイヤモンドが嘘かもしれない。だから、明日から父さんを探す旅に出ることにしようと考えている」
「マジかよ?」
「マジだ」
「なら、気をつけることだな。最近、八坂中学校付近で不審者が出没しているらしいからな」
「わかった。気をつける」
放課後。一日の授業を終えて、二人は文芸部部室に向かった。
「ハハハ」高田は腹を押さえて笑った。「学校の給食はまずいの何の......ハハハ!」
「仕方ないぞ。何せ、学校の献立一覧の横に一食分のカロリーと値段が書いてある。一食分は300円だぞ! ハハハハハハ!」
二人は廊下を一緒に歩きながら、談笑して進んだ。部室に到着すると、扉をスライドさせて開き、中に入った。
「テレパシーの件は残念だった」
「新島にも解明出来ないものがあるんだな」
「あるぞ、そりゃ......」
二人は談笑を続けたが、三島と新田が遅すぎることに新島は不思議に思った。
「なあ、高田。三島と新田、遅くないか?」
「気にしてんのか? 女子は女子なりに都合とかあんだろ」
「それもそうだが、昨日の今日だから何か不吉な予感がする」
新島に言われて、高田も不安になってきた。二人は部室を飛び出して、三島達を探すために走った。まずは三島のクラスである六組の教室まで歩いた。しかし、三島の姿を見つけることが出来ず、次に新田のクラスまで向かった。どちらの教室にも二人の姿を認められずにいたその時、新島は急に走り出した。
「新島! どこに行くんだ!?」
「獅子倉を探せ!」
音楽室、音楽準備室、音楽資料室etc......。歩き回って探したが、獅子倉さえ見つけることが出来なかった。
「三人が消えた」
「新島は心配性だな」
「心配性なんかじゃない。高田がルーズ過ぎるんだ。探せ。身に危険が及ぶ前に探さなくてはならん!」
二人はそれぞれA棟、B棟を探し回った。
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