緋色 その参

「マキシマム。面白いから、本当のことを言ってもいいかね?」甲斐次は真を見ながら、白い歯を剥き出しにして笑った。

「まあ、言ったとしても、今更ダメージは受けないだろうな」

「なら、言っていいというわけだな?」

「ああ、そういうことだ」

 甲斐次は微笑みながら、真の方を向いた。。それから、口を開く。「我が家に養子として迎える真琴は、君の血の繫がった兄弟だ」

「はぁ?」真は眉間に皺を寄せた。「体外受精によって生まれた者の一人か?」

「そうだよ。だから、亡き誠の面影がある」

「なんで真琴は養子縁組なんだ?」

「悟ったくせに、聞こうとするのか? ──真琴は誠と心臓が適合していなかったからだ」

「だったら、今になって養子にする理由がない」

「違うよ。何回も言わせるな、真。真琴は誠と似た何かがあるのだよ」

「面影か?」

「目だ。目が似ている。いや、眼(まなこ)だよ。眼がな、同じなんだよ!」

 甲斐次は椅子から立ち上がった。


 次の日、新島は疲れたように重い足取りで登校した。高田も似たような歩き方で、二人の共通点は悩みを抱えているということだ。

 真琴は、今月中にも新島家の人間として籍を入れるらしい。

 また、高田は高田で苦労していた。赤い火の玉の正体は一晩考えてもわからなかった。三島が言っていた螺鈿シールを調べてみると、確かに使えそうな物だったが、やはりどこに吊り下げたかが問題だ。隣りの家とは離れているし、足音もなかった。康治の妻はまだ帰宅していなかったようだし、まさか本物の火の玉だったという結論も駄目だ。今日にでも新島に尋ねる予定で、手帳にはまとめてきていた。パソコンはパソコン部のでも借りよう、とも考えていた。

 新島という一縷(いちる)の望みにかけていた高田だったが、新島の顔を見た途端に尋ねる気が失せた。新島の顔は、失意のどん底のような表情で形成されていたからだ。昨日の会食で何かあったと知った高田は、まずは新島を励ますことにした。

「よお、新島!」

「お、おう。昨日、君津の家に行ったんだろ? 何かわかったか?」

「急だな。それより、じゃんけんしようぜ」

「お前の方が急だぞ......」

「じゃーんけーんっポンッ!」

 高田の声に合わせて新島はパーを出した。高田はグーを出してから、チョキを出した。

「高田、お前後出しだ」

「証拠がないだろ?」

「証拠はないな」

「だろ? 人をむやみやたらと疑っちゃ駄目だぜ」

「何かイラッとしたが......元気が出た」

「だったら、俺に言うことがあるだろ?」

「じゃんけん弱っ!」

「じゃなくて、ほらっ」

「サンキュー、か?」

「あ? 39?」

「違ーよバカッ」

 二人は微笑しながら教室に入った。

 数分後、教室に八代が入ってきて、教卓の前で背筋を伸ばした。「今日、転校生がうちのクラスに転入してくる」

 瞬く間に教室中の生徒から歓声が上がった。

「転校生は女子だが──」

 男子生徒が雄叫びを上げる。

 八代は廊下に顔を向けて、「よし。入ってこい」と言った。

 八代が呼んでから、数秒で教室に顔を出したのは女生徒だった。髪は長いが後ろで、ポニーテールと呼ばれる束ね方をしている。身長は160センチ前後で瞳が大きく、大人びた感じがするが、口元からは無邪気さも感じられる笑みがある。鼻の形はちゃんとしていて、まつげは長い。誰もが認める超絶美人だ。

「自己紹介をしてくれ」

 一度うなずき、前に向き直って口を開いた。「乾(いぬい)第三中学校から転入しました、早稲田(わせだ)木風(このかぜ)です」

 男子生徒の盛り上がりを八代がなだめて、早速授業が始められた。

 それから多々あったものの、一日の授業が終わり、放課後のチャイムが鳴ってすぐ新島と高田はコンピューター室に向かって走り出した。

 コンピューター室に到着すると、高田はパソコンを起ち上げてUSBを差し込んだ。画面が明るくなると同時にマウスとキーボードをいじくって、例の赤色の火の玉の映像を再生させた。新島は椅子に座ってゆっくりと眺めた。

「なあ、高田」

「どうした? 何かわかったか?」

「お前の話しを聞いたり、映像を見たりしてわかったことが一つある」

「なんだ?」

「本物っぽくない?」

「わかる! その気持ちわかる! だが、火の玉なんて存在しないんだから人為的としか思えない」

「......そういえば、三島が面白いことを言っていた」

「何?」

「赤色の螺鈿シールを使って火の玉を出現させたんじゃないかだってさ」

「螺鈿シール?」新島はパソコンで検索エンジンを開き、螺鈿シールと打ち込んで検索した。「なるほど、これが螺鈿シールか」

「どうだ?」

「なにが?」

「螺鈿シールで火の玉は出来そうかな?」

「うーん」新島は腕を組んで、うなり声を上げながら椅子を回転させた。「やってみないとわからなさそうだな」

「実験、やってみっか!」

「わかった。螺鈿シールの調達は俺に任せろ」

「オーケー。俺はなにをすればいい?」

「高田は......そうだな、釣り竿が一つ欲しいな」

「わかった。釣り竿一本を調達しておこう。他にはあるか?」

「特には無いな」

 新島はパソコンをシャットダウンさせて、USBを引っこ抜いた。

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