緋色 その壱

「よし。じゃあ、新島から時計回りで新しく入手した情報の発表だ」

「俺からか?」

「そう。新島からだ」

 新島はコーヒーを一口飲んでから、床に置いた。「文芸部部長として、先輩に新たな事件の説明をする」

「新たな事件?」

「君津さんという一年生が放課後の校庭で青白い火の玉を見た。そんで、俺達は理科室にあるシュウ酸ジフェニルに注目した。そのシュウ酸ジフェニルはケミカルライトに使われているもので、シュウ酸ジフェニルを使用して火の玉を再現してみたら君津さんが以前見た火の玉と同じだと言った。一応、青白い火の玉は解決済みだ」

「一応?」

「まだ犯人と動機がわかっていない。それに、君津さんは家に帰ってからも緋色の火の玉を目撃している」

「なるほど。緋色の火の玉はいつ調べるんだ?」

「明日、君津さんの家に行くことになった」

「明日か。新島は私達と会食があるな」

「え?」新島は首を傾げた。「先輩も来るのか?」

「明日、君と君の親父さんとその弟、うちの父と私が集まって会食すると父からは聞いた」

「あのくそ親父、何も話してくれてねえな」

「まあ、仕方ないさ。次は高田」

「はいっす。──新島がほとんど説明しちゃったんで、火の玉の件に関しては情報はないっすよ」

「火の玉に関して? 他にはあるのか?」

「もちろん、ちゃんとあるっす。なんと、七不思議研究部から事件の調査を依頼されました。今の七不思議研究部の部長は市原とか言ったっすね」

「どんな事件だ?」

「くだらない事件ですよ。市原部長の兄貴は今、就職活動をしているんすが、その兄貴はいつもゲームばっかしかしないらしい。大体は雀荘で麻雀。たまに将棋もあるらしい。身辺調査っす」

「ふむ」土方は腰に手を当てた。「どちらもお金を賭けてゲームをしていて、小遣い稼ぎという可能性はあるな」

「だから、市原部長はかなり心配していましたっす」

「確かにそうだな。わかった。次は三島だ」

「私は新しい情報など持っていませんね」

「なら、新田も情報はないか?」

「はい。私もないです」

「早く終わったな......」


 次の日の放課後、新島と土方は急いで新島宅の前に停まっている車の後部座席に乗りこんだ。運転席には新島の義父、助手席には土方の父がいた。

「やあ、二人とも。私の弟は先にレストランに行っているはずだよ」

「親父」

「何だね?」

「今日の会食は何が目的だ?」

「目的? 父親が息子に会うのに理由が必要かな?」

「理由は必要だ。お前とは血が繫がっていない」

「それでも、君は私の息子だよ」

「義父の分際で......」

「おかしいな? 君のお母さんは了承していたが?」

「あれは母じゃない」

「血は繫がっているはずだ」

「実の息子を殺そうとした時点で母じゃない」

「いつ、殺そうとしたのかな?」

「兄貴を生かすためだ」

「君はお兄さんのことを覚えていないはずだ」

「記憶にない」

「そうだろうな」新島の義父は車を発車させた。「真。今日から君はお兄さんだ」

「は?」

「養子を迎えようと思っている」

「何を言って......」

「名前は真琴(まこと)。年齢は十三歳。中学一年生だ」

「二つ年下か。なぜ、急に養子を?」

「君の死んだお兄さんに似ていたからだ。まあ、まだ確定はしていない。今日の会食で決定する」

「そうか。好きにやってろ」

「いや。君は無視が出来ないはずだ」

「何でだ?」

「義弟は八坂中学校に通わせるからだ」

「実家は八坂市にないはずだ」

「もちろん、実家は八坂市ではない。つまり、君への嫌がらせという奴だ」

「最低の義父だ」

「君はもう、義父、実母、故人の兄、その他身内に頼れる人間はいない」

「甲斐次(かいじ)さん......!」助手席に座った土方の父親が、新島の義父をなだめていた。

「闇医者は黙っていろ。貴様もクローン創世の共犯だ」

「闇医者からは足を洗っている」

「それでも過去は変わらない」

「そうですが......」

 車は駐車場に入り、四人は車を降りた。目の前のレストランに入ると、こちらに手を振っている男がいた。新島の義父弟のようだ。

「マキシマム」義父はポケットに手を突っ込んだ。「少し遅れた」

「甲斐次兄貴、だからマキシマムはやめろって......」

「すまんな。で、数年前のクローン創世のことは覚えているか?」

「ああ、兄貴が再婚した人の連れ子を救うための......」

「それで創世されたのが、こいつだ」

 義父は新島を指差した。

「どうも。新島真です」

「俺は牧島圭太郎(まきしまけいたろう)、甲斐次兄貴の実弟だ。君を創世するのに手を貸した」

「そういうことだ。じゃあ、座れ」

 四人は席に座った。

「今日、会食をしたのは他でもない。闇医者兼真の育て親とその娘、私とその実弟、そしてクローンの真。この五人で真琴を我が家に入れるか決める」

「ってか、なんでその養子を迎えるか決定する会食に俺が呼ばれたんだよ?」

「マキシマムはクローン創世に関わっているからだ。真琴は亡き真の兄の面影がなぜかあるんだ」

「何故かって......」新島は眉間に皺を寄せた。「血縁者で兄貴の実弟の俺より、血の繋がりもない養子の方が兄貴に似てるってか?」

「そういうことになるね。クローンより養子の方が誠の面影を感じるんだ」

 新島は腹を立てながら、椅子に座った。

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