跋扈 その参

「閃いたのか?」

「ああ、完璧に閃いたぞ。誰か、拡大鏡は持ってないか?」

 高田は周囲を見回してから「ないぞ」と答えた。

「なら、肉眼で視認してやる」

 新島は紙切れに目を近づけて、文字を読み取っていった。椅子から立ち上がると、紙切れをテーブルに置いた。

「この紙切れにはこう書かれていた。『青いライトを借りる 上山啓士(かみやまけいし)』」

「上山? 二年生の数学科教師の上山か」

「多分、その上山だろうな。で、なぜ上山が青いライトを借りたかというと──」

「ちょっと待て、新島。紙切れには何も書かれていないはずだ」

「この文字はフリクションインキで書かれていたはずだ。フリクションインキは消せるボールペンに使われいるインクだ。擦ると消えるのは摩擦熱で消えているから。つまり、熱でも消える。

 上山は紙切れに借りたことを書いて置いておいたが、その紙切れの上に熱いものが置かれたんだろうな。例えば熱い飲み物。そして、文字が消えてしまったというわけだ。

 俺はフリクションインキで書かれた文字の筆圧、つまり凹凸を読み取ったんだ」

「なるほど。だが、上山はなぜ青いライトを持っていったんだ?」

「大体予想はついているが、まずは見に行こう」

 新島は部室を出た。三人は新島のあとを追った。

 向かったのは、補習室だ。新島が扉をノックすると、上山が出てきた。

「どうした?」

「青いライトを使っていませんか?」

「使っているが、どうした?」

「演劇部では青いライトがなくなってパニックになっています」

「借りることは紙に書いた」

「フリクションインキを使っていたので、熱い飲み物か何かで文字が消えてしまったんです」

「なるほど。すぐに演劇部に伝えてくる!」

「いえ、先生は補習を続けてください。俺達が伝えてきます」

 新島は苦笑した。「青色は集中力を高める効果や精神を沈静する効果がある。そして、今は補習中だ。上山は青色の効果を利用したかったらしい。だから、演劇部から青いライトを借りたんだ」

「そういうことか」高田は何回か首を縦に振った。

 それから演劇部部室に向かい、新島はノックした。すると、佐久間が扉を開けた。

「ん? 新島か。何か進展はあったのか?」

「あの紙切れにはフリクションインキで文字が書かれていた。だが、何か熱い飲み物を紙切れの上に置いたのか文字が消えてしまった」

「なるほどな。確かに、部員の一人が熱い飲み物を紙切れの上に置いていた。で、他の部員が紙切れが下に敷かれていることに気づいたんだ。紙切れには何て書いてあった?」

「『青いライトを借りる 上山啓士』とあった。上山は二年生の数学科教師で、補習も担当している。青色は集中力を高めたり精神を沈静する効果があるから、上山は青いライトを補習室に使いたかったんだ。だから、演劇部から青いライトを拝借した」

「そういうことか。また助けられたな。感謝する」

「感謝されるようなことはしてないけど......」

「じゃあ、何かあったら頼ってくれ。我々演劇部は未来永劫(みらいえいごう)、君達文芸部の味方だ」

「ありがとう。感謝する」

 佐久間はお辞儀をして部室に戻って行った。


 四人はまた部室に帰還した。

「火の玉の件は振り出しに戻っちまったなぁー」

「なら、高田も何か意見出せよ」

「だから、電飾のことを言っただろ?」

「それだけだろ」

「まあ、そうだけど......」

「他に何かアイディアはないか?」

「俺はない」

「あの」三島が手を上げた。「夜、校舎に隠れて火の玉が現れるのを待ったらどうでしょう?」

 新島は腕を組んで考えた。「ナイスなアイディアだ! そうしよう」

「んじゃあ、俺も賛成」

「私も賛成します」

「よし。今日には決行しよう。部室は七階だから、部室に隠れていても大丈夫だろう」

「写真はどうする? 撮影するだろ?」

「うん。撮影しよう」

「なら、写真部に行ってカメラを借りてくるぜ」

「頼む」

 高田は部室を走って出て行った。それから十分で、右手にカメラを持って帰ってきた。

「青白い火の玉の正体は、見た方が調べてやすいからな」

「なら、夜まで待機か」

 四人は読書を始めた。新田は本を読む前にトイレに行くために席を立ち、新島は図書室から読みたい本を借りに行った。

 その後、二時間ほど本を読んでいた。空が暗くなり始めると、新島は本をテーブルに置いた。そして、窓から校庭を見下ろした。

「あれは......」

「どうした、新島」

「青白い玉が、校庭を浮遊しているんだ」

「本当か?」

「見てみろ」

 高田は椅子から立ち上がった。窓を覗くと、青白い火の玉が見えた。

「いる! 火の玉だ!」

 三島と新田も椅子から立ち上がって、窓に近づいた。

 青白い火の玉が、校庭を跋扈(ばっこ)しているのだ。右に行ったり左に行ったり、時には激しく回り出したのだ。

「高田ぁ! 写真、カメラ!」

「あ、そうか。ちょっと待ってろ!」

 高田はテーブルに置いてあるカメラをつかんで、レンズを校庭に向けた。そして、フラッシュを焚(た)いて写真を撮影した。

「まじで現れたな、青白い火の玉......」

「どんなトリックか、気になるな」

「新島はすでに解いているんじゃないか?」

「まだだよ。だが、必ず解けるはずだ」

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