跋扈 その弐

「まず」新島は椅子を君津の前に持ってきて、置いた。「その椅子に座って、依頼内容を話してみてください」

「わかりました」

 君津は椅子に座った。

「じゃあ、三島。書記をしてくれるか?」

「やってみましょう」

 三島はカバンからノート、筆箱からシャープペンシルと消しゴムを取りだした。

「私は先週の金曜日に、陸上部ロッカーに置いてきた運動靴を取りに学校に戻りました。そして、ふと校庭を見たら青白い火の玉を見たんです」

「青白い、火の玉?」

「はい、そうです。それから、教員に会いまして、その人も火の玉を見ました」

「その人からも証言を聞きたいが、できそうか?」

「出来ると思います。で、私は家に帰りました。玄関にはお父さんが待っていたんですが、玄関から見える窓の外からも火の玉が見えました。まあ、その火の玉は赤色だったんですが......」

「火の玉か」君津の話しを聞き終えた新島は、書記はいらなかったな、と思って頭を掻いた。「まずは火の玉を見た校庭を確認したいな」

「これからでよければ、案内しましょうか?」

「いいの? いや、君津さんは陸上部でしょ? 今日も陸上部は練習があるはずじゃ?」

「今日は陸上部の練習は休みました」

「なるほど。なら、案内してもらおう」

 君津を先頭にした五人の集団は、ひとまず校庭に出た。

「ここらへんで、火の玉を見たんです」

「君津さん、火の玉の近くに人影は見えましたか?」

「火の玉が印象深くて、人影は覚えていません」

「なるほど」

「なあ、新島」

 急に高田が話しかけてきたから、新島は嫌そうに、何だよ、と応じた。

「もしかして、青い電飾じゃないか?」

「それはまだわからん。結論はまだ早すぎる」

「そうか」

 新島は高田から君津に体を向けた。「あとはこちらでも調査しておきます」

「わかりました」

 君津は校舎に向かって、歩いて行った。

「さて」新島は首を回して、指を鳴らした。「まずは、青白い火の玉の正体を調べてみようか」

「だから、電飾じゃないか?」

「話しを聞いている限りじゃ、火の玉はかなり大きいはずだ。電飾ってことはないんじゃないか?」

「そう言われると、そうだな」

「もしかしたら、学校の中に青い光を発する物があるかもしれない。火の玉が人為的につくられたと仮定したうえで、演劇部の使うライトの内に青いライトが盗まれてないか尋ねてみよう」

「そういうことか」

「演劇部って」新田は頭に人差し指を当てた。「七不思議の一番目ではめられた部活ですよね?」

「そうだ。あれも、新島が解決したんだ。鈴木真美(すずきまみ)も少し関わっていたな」

 鈴木真美とは、新島と高田の一つ年上で文芸部と同じく七不思議の七つ全てを解明している人物だ。

「高田、そんなことはいい。演劇部に行くぞ!」

 高田、三島、新田は声をそろえて、おぉー、と叫んだ。


 四人は演劇部部室に向かった。新島がノック、というより叩くと、扉が開いて高身長で肩幅が大きい筋肉質の男が出てきた。そして、その男は演劇部部長の佐久間司(さくまつかさ)と名乗った。

 文化部のくせして見た目は運動部だ。おそらく、一年生の時は柔道部や空手部などの勧誘で引っ張りダコだっただろう。

「俺は文芸部部長の新島真だ」

「ああ、文芸部。去年はあなたたちのお陰で、屋上での練習が続けられた。感謝する」

「感謝されるようなことはしてないな」

「それで、本日はどのようなご用で?」

「先週の金曜日に校庭で青白い火の玉を見た人がいて、演劇部の小道具に青いライトがないか確認しにきたんだ」

「青いライトはあるにはあるが......」

「あるにはある?」

「今朝、小道具を調べてみたら青いライトがなくなっていたのだ」

「青いライトは、いつもならどこに保管している?」

「この部室の隣りの小道具保管室だ。入ってみるか?」

「ああ」

 佐久間は鍵を持ってきて、保管室の扉を開けた。中は小さな箱がいっぱい並べられていた。その箱には小道具が詰まっていた。

「あそこに見える箱に青いライトが九個くらい入っていた。その全てがなくなっていた」

「あの箱か。......他に変わったことはなかったか」

「そういえば、部室の中のテーブルにこんな紙切れが置かれていた」

 佐久間は胸ポケットから小さい紙切れを出して、新島に渡した。

「白紙だな」

「そうなんだ。白紙が置かれていて、皆が捨てようとしていたが何かを感じて胸ポケットに入れておいた。その紙切れが役に立つといいな」

「何かわかったら伝えよう」

「頼む」

 佐久間は一礼してから部室に戻って行った。


 四人も文芸部部室に戻ったが、あれから進展はしていなかった。

 新島は紙切れを光りにかざして眺めていたが、何の変哲もないようだ。

「新島。何かわかったか?」

「まったく全然わからんな」

「なあ、演劇部部室に最後に入った人を調べれば犯人がわかるんじゃないか?」

「学校に防犯カメラはない。だから、殺人事件があっても犯人は不明だ」

「周りの防犯カメラには映ってるんじゃないか?」

「かもな。ただ、青いライトを盗んだ犯人は学校の奴だろうから荷物検査をしない限りわからないはずだ」

「確かにそうだな」

「まったくだよ」

「なら、足跡から犯人は割り出せないかな」

「おいおい。俺達は警察じゃないんだ。鑑識課もいないよ」

「そうだな。それに、どれが青いライトを盗んだ犯人の足跡かわからないもんな」

「そういうことだ。警察のまねごとはできないぜ」

「新島ならどうする?」

「そうだな......。偉そうに言ったが、指紋採取くらいしか思いつかない」

「だよな。あとは容疑者全員殴ってから、白状させるか?」

「自白剤の方が早いだろ」

「違法だろ、それ」

「さあな」

「あっ! こんなのどうだ? 確か、指紋程度なら一般人でも採取できる」

「どこの指紋を取るんだ?」

「あぁ、それもそうだな」

「まったく、ちゃんとしろよ」

「いいアイディアだと思ったんだが......」

「いいアイディアだと? 駄作だよ」

「駄作?」

「そう、駄作だ。まったく駄目なアイディアだ」

「なら、俺は駄犬か?」

「よくわかっているじゃないか」

「地味に酷いことを言うよな、新島は」

「そんなもんか?」

「ああ、そんなもんだ」

 新島は椅子に座って、背もたれに寄りかかった。「ん?」

「どうした、新島」

「この紙切れ、もしかすると」

「もしかすると、何だ?」

「閃いたぞ。もしかするとな」

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