第292話 未踏の境地
「アーク君……なの？」
「これ、は……？」
異質にして未踏。大きく変化した俺の姿を見て、誰もが言葉を失っている。だが、今は自らの成すべき事を果たすのみ。懺悔も後悔も必要ない。
「
「はっ！ 思い上がるな！ 人間ッ！！」
漆黒の翼で空を駆ける。一瞬の内にマルコシアスへと肉薄し、
対するマルコシアスもこれまでと同様に大剣を振り上げ、迎撃の斬撃を繰り出して来た。
幾度もぶつかり合った互いの一閃。しかし、今回ばかりは様相が違う。
「この力は……あり得ぬ！？」
巨大な黒閃が深淵の剛裂を明確に押している。それも真正面からという事あってか、マルコシアスの表情が驚愕に染まった。何故ならこれまで膂力という意味合いであれば、マルコシアスの強さは絶対的だったからだ。瞬間的になら競り勝つ事はあったにせよ、それも稀。更にはこちらの新形態に対して奴が初見などと、何らかの要因が絡んだものだった。
しかし、今は違う。真正面からの正攻法で奴と向き合っている。
「出で立ちが変わって、再び勢いづいたか！？ しかし、新たな王足るこの我に……ッ！！ 貴様程度が勝てるなどとは思わん事だッ！」
「……ッ！」
その直後、奥底から湧き上がるかの様な闇の波動が奴の全身を包み、凄まじい圧力となって襲い来る。刃が押し戻され、拮抗。ここまで散々連戦を続けて来ながら、どこにこんな力が残っているのかと驚嘆を感じざるを得ない。
だが俺は推進力を前方ではなく下に向け、そのまま奴の下方をすり抜ける様に間合いから離脱。更にノーモーションで急速反転。マルコシアスの背後から刃を突き立て、奴が反応するより
「相も変わらず……鬱陶しいッ！」
マルコシアスは更なる驚愕を浮かべ、振り向き様に剣を振り抜く。だが、其処に俺の姿はなく、既に上方に逃れている為に巨剣は空を切る。そして、奴が剣を振り抜いた直後の硬直を狙い、上段から
「なんだこの
レスターの長剣と無理やり体を捻って引き戻された大剣とが重なり合い、俺の一撃を防ぐ。こちらは一振り、あちらは二振り。斬撃の威力は拮抗しているとは言い難い。更に
「そうそう何度も……思い上がるな、人間ッ！！」
このまま兜割で押し込もうとした時、牙翼が角度を変えて切っ先が俺に向けられる。刹那の発光。二つの光線が空を駆けた。
しかし、火砲が発射されるよりも早く、俺の姿は空から掻き消える。即座にマルコシアスの背後に回り込み、再び一閃。左翼上方の一枚を斬り落とす。それに反応してか、闇纏う長剣が撫でつけられる様に振るわれる――が、それよりも早く下方に逃れつつ、
「“絶・黒天円月斬”――ッ！！」
双翅と基部からの
「ぐ……ッ！ “ディスペアーインフェルノ”――ッッ！！！！」
「面で焼き払うつもりか……ッ！」
だが、深淵の巨大斬撃が闇の残滓を切り払うかの様に飛来し、凄まじい熱量が空を彩る。それも一つは二つじゃない。視界全体を埋め尽くす連続斬撃。範囲攻撃の方がピンポイントで狙うよりも効率が良いと判断し、攻め方を切り替えたのだろう。尤もその方が効率的だと判断出来る奴の魔力量が異次元なのは、言うまでもない。
「だとしても……」
俺は闇の嵐の中を錐揉みしながら突き進む。奴の懐に飛び込んで斬撃を叩き込む為に――。
「吹き荒べ……ッ！」
飛行中である自分の周囲に、黒蒼を纏う氷槍を出現させる。俺にとっては使い慣れた射撃魔法ではあるが、氷槍の総数は九十五。これまで一度の運用が四、五本程度あった所と比べれば、次元の違いが目に見えて分かる事だろう。
「“ブリザードランサー・エアリアルシフト”――
そして、一斉掃射。
闇の斬撃群と連続衝突し、光を取り戻した空を爆炎の華々で彩る。だが必殺の威力とはいえ、所詮は弾幕。マルコシアスの斬撃を押し切れるわけもない。それでも、視界を遮る事が出来たのならそれでいい。
俺は爆炎の中を突き破って衝突の余波から脱出。斬撃と共に氷獄の竜を飛翔させる。
「我を……
対するマルコシアスは、長剣の切っ先から極大砲撃を放って迎撃を図った。互いの攻撃が激突する。しかし、もう発射地点に俺はいない。
「――遅いッ！」
「な……ッ！？」
超速機動でマルコシアスの背後に回り込みながら斬撃魔法を起動し、
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