第291話 黒銀ノ死神
闇色と虹色――二つの魔力光が混ざり合い、眩い光が天を裂く。俺とマルコシアスを巻き込みながら、死の空で巨大な力が渦を巻く。
「なんだ……これは……?」
決死の覚悟で突貫したが、今は痛みも衝撃もない。強大な力と暖かな力が互いを中和し合いながら、俺の周囲を漂っている。破壊の嵐に身を晒されても無事でいられるのは、きっとそのおかげなのだろう。
『アーク君ッ!?』
声が聞こえる。
『くそっ!? どうなってんだよ! 光の柱がまた強く……!』
『アーク……』
皆の声が――。
『力は拮抗しています。私達の想いは届いと信じたいところですが……』
『はぁ……はぁ……ッ!』
そんな時、聞こえるはずのない声音を受けて思わず身を固くした。目を向ければ、エリルの傍らで膝を付くガルフの姿。腹部から鮮血を流しながら、荒い呼吸を繰り返している。
『――帝都に残った連中全員を倒れる寸前まで疲弊させて搔き集めた魔力だ。届いて貰わなくては困る』
『それで罪滅ぼしをしたつもり?』
『いや……僕の犯した間違いは……罪は、未来永劫、決して消える事はない。この程度で贖罪になるとは思っていません。でも、今は僕も自分に出来る事をする。一人の戦士として……いや、一人の人間としての責任を果たさなければならない。そう思ったからこそ、再び戦場に戻って来た』
ルインさんの剣の様に研ぎ澄まされた視線が、今にも崩れ落ちそうなガルフを射抜く。戦闘中という事を差し引いても、恐ろしいほど冷たい声音。それこそ、マルコシアスに対しての激情とも違う感情が渦巻いているのがはっきりと理解出来る。
『それに皆が命懸けで戦っているのだから、市民や既得権益を持つ者だけが無条件で護られるなど間違っています。戦わないのなら、それなりの責任を取るべきだ。だから、彼らにも力を貸してもらう』
激突の瞬間に俺を包み込んだ力の正体。それは帝都に残った者達の魔力の全てが込められた“ディバイドエナジ―”。いや、それだけじゃない。
ルインさん、セラス、アリシア、キュレネさん、リゲラ、エリル――皆の力が、想いが、魔力という形で俺の中に流れ込んで来る。激しい戦闘で欠乏した魔力を補填し、更に上の次元へと
「“
魔力循環が臨界点を超え、身に纏う
身体の奥底から力が溢れて来る。これまでとは比較にならない感覚だ。これならマルコシアスとも戦えるかもしれない。だが
ならば、俺が成すべき事はただ一つ。
目の前で渦を巻く破壊の闇。魔族の象徴である闇の力と改めて向き合う事。それは人間と魔族が共に生きる世界で、双方の為に歩んでいく覚悟を示す事も同じ。
周囲の皆、マルコシアス、相克魔族、犠牲となった者達、何より世界そのものに――。
「俺は前に進む。想いを貫く為の力を……」
両手を開き、迫る深淵を自らの身体で受け止める。例え魔王の闇に身を晒そうとも、俺が燃やし尽くされる事はない。“ディバイドエナジ―”に加えて、
「――」
永久の闇。底の見えない力の奔流に包み込まれる。マルコシアスの力、奴が取り込んだ数多くの相克魔族の意思――その全てを感じ取る。それも魔力譲渡の術式に落とし込まれていない分、荒々しい魔力の奔流から魔族達の生の感情を直に――。
そして、俺は改めて思った。
人間も魔族も感じる想いは同じ。何ら変わりないのだと。ならばきっと、まだ未来を紡げるはず。互いに分かり合い、自由で平和な世界を創る事は出来るはずだ。
無論、それは並大抵な事じゃない。血反吐を吐いて身を裂くような苦痛を背負いながら一生を費やそうが、そんな未来は一生来ないのかもしれない。だとしても、そう在ろうと願う事は間違いじゃない。そんな世界を目指す事は間違いじゃないはずだ。
例えそれが誰かにとっての“悪”なのだとしても、俺は自分の
その為なら、この
憎しみの連鎖を断ち切り、全ての業は俺が背負おう。
だから、俺は――。
「――ッッ!?」
大空を包み込んでいた光の奔流が晴れ、誰もが身を固くする。
漆黒の太陽が消え去り、世界が
そして、雲一つない晴天の空に佇むのは、酷く場違いな一つの影。
「貴様……その、姿は……?」
マルコシアスの表情が驚愕に染まる。奴の視線の先にあるのは、生まれ変わった俺の姿。
“
俺の象徴たる
だが、何より変化したのは、俺自身の出で立ち。
頬や腕に刻まれた赤色の
そして、黒髪の毛先――その一部が白銀に染まり、紫紺の瞳も琥珀色に変わっている。そう、母さんから受け継いだ変わる事のない身体的特徴が、この一瞬の内に変質した。それを見て、皆が驚くのも無理はない。いや、俺自身すらも――。
だとしても、この力は旅路の果てに辿り着いた終着点に他ならない。
「“
これは俺自身が望んだ全てを束ねる力。
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