第290話 夜天に輝く流星

「護りたいモノ……そんなものッ!」

「お前だって、その為に戦っているはずだッ!」


 再び空へ舞い上がった俺達は、互いに持てる力を尽くして何度も斬り結ぶ。魔光と剣戟――漆黒の空を二つの闇が塗り潰す。


「それに……今は醜く無価値な世界でも、これから先の未来で価値あるものに変える事は出来る。いや、変えていかなきゃならない! だから、この世界に生きる命の滅びを止める為に……今も戦っている!!」

「自らの独善エゴで世界を動かそうとする……大した正義もあったものだな。貴様も我と何ら変わりない!! この闘いを否定するという行為自体が、どれほど傲慢なのかを知るがいい!」

「生憎と俺は自分が正義の味方なんて思った事は一度もない。俺自身の行動が正しいとも思っていない!」

「貴様……!」

「誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪となり得る。普遍的な正義など存在しない。だからこそ言える。俺もお前も間違っている! この戦いもな!」


 “正義”と言えば聞こえはいいが、所詮は自己の行動を正当化する魔法の言葉でしかない。自ら正義を自称する者など、大半は清廉潔白には程遠い利己主義者エゴイストばかりだ。それも正義の御旗を掲げて自覚無き悪意を振り撒く辺り、真正の悪人より質が悪い。その本質は、人間も魔族も何ら変わらない。


「自らすらも否定した上で突き進むと……そんな理念に命を懸けるとでもいうのか!?」

「違うな。間違っているから前に進む! 自分の選択だからこそ、命を懸けるんだッ!!」


 この戦いも同じだ。

 人間の為、魔族の為、世界の為、己が想いを貫く為、誇りを取り戻す為――どれだけ高尚な理由を並べ立てても“暴力”という手段を取る以上、其処に“正義”はない。どうあっても、“悪”しか残らない。

 例え誰かを護る為でも、どれだけの不条理に苛まれようとも、それは正義の戦いにはなり得ない。聖戦ジハードなど存在しない。


「こんな戦いは……こんな間違いは、俺達で終わりにしなければならない! 次の世代が笑って未来明日を迎えられる世界を作る為に!」


 確かに今のままの世界なら滅びた方がいいのかもしれない。しかし、人間も相克魔族も変わって行ける。現に今は人間と相克魔族が共に肩を並べて戦っているのだから――。

 それにこの戦争の中においても、敵に回った彼らと思いの丈をぶつけ合い、少なからず共感し合った。この輪を広げていければ、いつかは争いの無い世界――誰もが話し合いという卓に着ける世界に変わって行けるはずだ。


 正義など、どこにもない。

 誰もが弱者でしかない。

 力を振るう事が罪なら、何も護れぬ事もまた罪。


 それなら――。


「憎しみの連鎖を断ち切る! それが俺の戦い……それが俺の、選択だッ!!」


 罪と罰、そして慟哭――全てを背負って戦う。未来明日の為に――。

 今の俺に出来るのは戦う事だけだから。


「はっ! その戯言……深淵の底に沈めてやろうッ!」


 大剣の切っ先で広域殲滅魔法ジャガーノートが三度輝く。しかし、魔法の出力は二度目とですら比較にならない。


 光を失った夜天の空。

 その中心にそびえる漆黒の太陽。


 巨大な剣尖が虚空を刻み、その全てが墜ちて来る。この一撃が地面を揺らせば、帝都周辺の一帯が完全消失してしまうであろう破壊の嵐。最早、自然災害すらも軽く超えている。 それこそ、まるで世界そのものが牙を剥くかの様な――。

 だが、ここで退くわけにはいかない。俺達が未来を紡ぐ事が出来るのかどうか――それもまた、この戦いにかかっている。


「俺達の旅路で得たモノ……俺達の未来……お前で量らせてもらうッ!!」


 処刑鎌デスサイズの刀身に魔力の過剰供給を開始。

 残りは全て推進力へ転換する。


 激戦の連続により、万全には程遠い。

 しかし、己の感覚と刃は、これ以上ないくらいまで研ぎ澄まされている。後は全ての力をぶつけるだけ――。


「――貫くッ!」


 そして俺は流星となり、漆黒の太陽へと突っ込んだ。


「――アーク君!?」


 その瞬間、同時に背後から迫っていた虹色の光・・・・に包まれながら――。

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