第284話 処刑両刃鎌《ツインデスサイズ》
進化した雷轟と渦巻く深淵。
激しい剣戟が暴力的なまでの力を以て鍔是り合う。
「漸く……本当の意味で貴方の前に立てる」
「貴様風情に用などない!」
「貴方に無くても私にはある!」
ルインさんの出力上昇は異常だ。更に現状では、まだ制御の効くような能力じゃないし、発現したてであって出力の上り幅もあまりに不規則。
そして、ポラリスでの遭遇以降、最早数えきれない回数打ち合って来たマルコシアスには、これまでの斬撃の感覚が色濃く残っている。
それ故、完全に未知数。正面からぶつかり合えば、この初撃に関しては絶対的な違和感が生じてしまう。そして達人だからこそ、その些細な感覚のズレが致命的な相違点となり得る場面も存在する。
「それにさっきから訊いてれば、先代がどうの……勇者がどうのって!」
「多少様相が変わった程度で……小娘風情が図に乗るな! 貴様には……」
「関係なくないよ! いや、関係ないなんて言わせない。私は貴方の所為で全て失ったんだ!」
ルインさんの感情の昂り――彼女の糾弾に合わせて雷轟の
「閣下ッ!」
その最中、加速装置となった際に畳んだ双翅を開き、ルインさんに加勢するべく流れた空を戻ろうとしていた俺の背後に一つの影が出現する。それは間違いなく戻ってきたレスター。
下にはキュレネさん達が居る。現状においても援護がなかったという事は、恐らく彼女達と刃を交えていた筈だ。ならば、あまりにも復帰が早すぎる。下の皆に何かあったのか――即座に戦闘態勢を取った俺の脳裏にそんな事が過った。
しかし、奴の出で立ちを目の当たりにして思わず目を見開いてしまう。
「まさか、無理やり振り切って戻って来た……のか!?」
今も肩口に突き刺さったままである水流の矢。
槍で突き刺されたように鮮血の滲む腹部。
右のアームも根元からへし折られている。
魔力の鎧に関しては自己修復が利くとは言え、それでも満身創痍一歩手前と称して差し支えない。レスターの風貌がこれまでの優雅さとは、あまりにも結び付かないものだった。
「そこを退け!! 私にはやらねばならんことがある!」
「……っ! 肉を切らせて骨を断つとは、よく言ったものだ……!」
だが、そんな状態になってもレスターは進軍を止めず、マルコシアスの援護に向かおうと突っ込んで来た。俺もまた、当然通すわけにはいかず、レスターの前に立ち塞がる。
「押し通るッ!!」
「装備が復活した……来る!」
すると、レスターのアームとウイングが術者の魔力により損傷から復活。共同戦線・魔族連合を恐怖の渦に陥れた三剣尖が差し向けられる。
「“黒天氷絶斬”――ッ!」
「“トライデントアステリア”――ッッ!!」
氷闇の斬撃と闇の三剣尖が激突。
「――く、ぁッ!?」
俺は両断するつもりで刃を向けた。しかし、奴が咄嗟に身を引いたのか傷は浅い。巧みな戦闘センスだ。驚嘆に値する。
「しかし、この位置取りなら……!」
「武装の高速修復……」
更にレスターは、身を引いた一瞬の間で両方のアームを修復。アーム部を伸ばして、重量のある
だが、俺もそれを凌駕すべく行動を起こす。
「その、武装は……!?」
柄を持つ左右の手を逆に持ち替え、武器を振って競り上がって来た刀身とは逆の石突側を上段として
驚愕の表情を浮かべるレスターの視線の先には、変化した俺の
「魔法の媒介とするだけが魔力の使い方じゃない。魔力を鎧に出来るなら……これもまた、一つの武器の形だ」
今の
名付けるとすれば、“
写し身足る新たな刃の有無を切り替え出来るのは、その生成プロセスが双翅らと大差ないから。その上、自らの“氷”で武器を生成した事のある俺からすれば、魔力を武器に纏わせて物質化するのは造作もない事だった。無論、異常な魔力迸る“
「そして……終わりだ……」
「しま……っ!?」
今は斬り合いの最中であり、俺はさっきの一閃で
危機を察したレスターが回避しようとするも、カウンターを更なるカウンターで返された直後であり、一手出遅れている。
漸く手繰り寄せた決定的な隙だ。此処を逃す程、俺はお人好しじゃない。
「遅いッ!!」
再び刃が一枚になると共に、残された刀身に闇が集う。発射体勢は即座に完了。
更に同タイミングでもう一つの刃も振り下ろされていた。
「――私は貴方の時代がどんなに素晴らしかったのかは知らない。貴方も家族や友達や好きな人が居て、当たり前の暮らしがあったのかもしれない。どんな形であれ、幸せや誇りを無くしたんだから、それを追い求める気持ちも無力感も理解出来る。でも、今生きている命を否定して……弄んで……」
「な……にっ!?」
金色の光と共に青龍偃月刀の切っ先が地面を指す。竜翼を纏う魔王が真下の荒野に向けて吹き飛ばされていく。マルコシアスの人となりを知る者が見たら、奴が吹き飛ばされるなど驚愕物の光景だろう。しかし、それも序の口。
この程度の結果に満足することなく青龍刀が引き戻され、金色の髪がふわりと舞った。
次の瞬間には、その刃に雷が集っている。光輪から波動を舞い散らせながら雷を帯びた刃を掲げる様は、漆黒の空を照らす太陽。
「誰か幸せを奪っていい権利なんて貴方にはない! 高い所から偉そうにしないでッ!!」
再び刃が振り下ろされる。
天からの
双翼を広げた氷闇竜が異形の悪魔を――。
戦士たちの血を吸った荒野に叩き落し、二つの光で戦場を満たした。
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